散る散る満ちる。

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2023年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

擬人化:くもりぞら、アラート、
2011年12月15日初出(Pixiv)総合訓練が天候不良で中止になったのでそうやさんが遊びにきました。そんな話。#GAS

およそ海を知る身にとって低気圧というものは嬉しいものではありえない。悪天候で雌雄が決する戦いなどいまの世界には、少なくとも己のいた海峡間では起こりえなかった。つまりこの世は平和なのだ。
近く、しかしもはや自力ですら辿り着けない湾内で一年に一度の盛大な催しがあるとかで、隣の桟橋は空っぽだ。
波が不穏にうねる。低い圧力にぎしり、肩が軋む。腹にぶつかる冷たい海水が生ぬるい波を生んで、不規則に吹き下ろす風がばたばたと煩わしい。黄みがかった灰色の空が降ろした幕で遮られた陽光は景色を見事に平均化した。
一輪、切り裂いたような白色。
「こんにちは」
穏やかに響く柔らかい低音。いまだ現役の、赴任地は親しんだ北国の果てでその白色を見慣れてはいてもけして親しくはないその影と気配。
改造の末に砕氷船として生きた隣のアラートオレンジ、その後継として造られた、この国二番目の砕氷船。
青い海に映えるように威厳をもって制する白色、穏やかに上がる口角、なにを取っても似つかない外見はしかし不思議と既視感になじむ。
「こん、にちは…あれ、えーっと…東京湾でなんとかじゃなかったんですか」
とっさに名前が出てこなくて、少しの驚きでごまかせる範囲を探るように名称をぼかす。
「観閲式はこの天気だから中止になってしまって…時間が空いたものだから」
「あ、そうなんですか。わざわざどうも」
「ええ、突然でご迷惑かとも思ったんですが」
距離を測りかねているわけではない。ただ、立ち位置がやや不明なのだ。
直接的な関係はなくて、間接的というにもそのつながりは薄い。ただ単に、隣に並ぶ船の、後継というだけ。親だ子だ孫だ血縁だ、そういうものが存在し得ない関係だからなおのこと作る顔に困ってしまう。もちろんそこには主な目的が自分との会話にないだろうという予測も含まれているからこそ。
「先代は?」
「ああ、この天気なんで朝からちょっと」
調子が悪いみたいですと素直に申告しそうになってから慌てて気遣いのようなものが顔出して、おかげでやけに含みのある言い方が残る。ただ動くこともなく係留されているだけの状態は、思ったよりも天候に左右されやすい。気圧が低ければ節々は軋み、脆く弱くなった鋼鉄は悲しげに引き攣れる、毎回のことではないけれど時折、目を開けてすらいたくない時というのがどうしてもやってきてしまうのだ。
その微妙な心境を長らく前線で働く立場にどうやって伝えたものかと逡巡してみても、予想に反して相手はそうですかなんて納得している。
「…ご迷惑じゃありませんか」
「何がです?」
「いえ。——いつも、みていてくださるんですか」
その「みている」に含まれる意味がどちらなのかわからなくていまいち漢字に変換することが出来ないけれど、結局どちらの意味でもたしかにいつも、それこそいつも、みていると言えばみている。
「そう、ですね。ま、この距離なので」
「そう、ですよね」
ふふ、とこぼれるその笑い方を、似ていると言ったら気を悪くするだろうか。遠く、想像のつかないという意味では同じ距離を走った経歴で、生粋ではなくとも砕氷船として生きていれば所作の端々も自ずと似通うものなのだろう。
風が吹く、先ほどよりすこし強い。日も暮れて空気も心なし冷えている。程度の差はあれ、自分だってここでぼんやり立っているけれど、指先の細かい動作が今は不安だ。
来客には悪いけれど早々に引っ込んでしまおうと肩にかけた外套の襟を正す。
「これから宗谷さんの様子見に行って、それから俺も中に入りますけど、どうします?一緒に行きます?」
「うーん…先代、寝ているだろうから起こしてしまうと悪いし、今回は遠慮します」
「わかりました。起きてたら追いかけないように言っておきます」
その意味を理解したのか小さく吹き出して、頼みましたとほほを緩めた。
気が向けばどうしようもなく執着するくせにまったくあっさりと境界線ではねのける、その多面体の原因がどこにあるのか知っているからなのか、それとも自分の知らないなにかを語られたことがあるのか、くすんだ陽光に挑むような潔癖の白色をまとってこんな日にはぜひとも拝みたい夕日にも似たアラートオレンジを見つめる視線は少し、安直さに欠けた。

一番居心地が良い、と自負するだけあってなかなか座り心地の良い士官食堂のソファの上でまるでおびえるように小さく寝転がる姿を見ながら、その視線に含まれた何かを自分は詮索するべきかどうかを少し迷った。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:おたがい夏の身の上ですので。
2011年8月31日初出(Pixiv)宗谷さんと羊蹄丸さんの不穏な会話。時事ネタに愛だけ込めると、こうなります。#GAS

たとえば、どこかで何かがどうにか違っていたところでこの人にかなっただろうか、と隣のアラートオレンジが小さく風に居心地をただすのをぼんやり見ていた。
また台風だって、と解釈によっては投げやりにすら聞こえるつぶやきを上手に自分は受け損なう。
「荒れますか、ね」
「どうだろうね…真っ直ぐあがってきているけれど、うまいこといなくなってくれるといいねえ」
それが、その一種の投げやりがけしてあきらめでも本当の投げやりでも他人事でも無関心によるものでもないと知っているのに、今の今まで茫洋を気取っていたつもりで余裕なんてこれっぽっちもなかった自分は見事に裏目に食らいつく。
まるで自分のことのようだと精一杯の皮肉と嫌味を、ゆっくりと波の立つ表面にこぼす。
やたらと気まずい、だろう。それを狙っているのだから結果だけは順風満帆、そうしてあくまで、結果だけが。
風が湿気を帯びて来た。
「あんまり、そういう言い方は好きじゃないかな」
控えめに、遠回しに、一足飛びに、切り裂く鋭さはないものの、砕く強さは変わらずに、いつもたたえる笑みも潜めて、追い打ちのようにぽつりと跳ねる。
「あなたになにがわかるんですか」
まるで三文芝居の打ち返し。普段はどうして生きる時代の違いからなのか歩んだ道の違いからなのか、すれ違い噛み合わずお互い困惑することはあっても衝突なんて滅多にないから、(ああでもこの人が何を言おうと自分はつぶあん派なんだけれど)、さてこのステレオタイプな書き割りの打ち返しをどうやって呑みこんでくれるのか一瞬だけ楽しみであったことはいつまでも秘密にしていようと思う。
微笑でごまかす無表情が少しだけ、裏側に何かをにじませた。
「それは、でも、」
空気はにわかに重苦しい。低く掠れる応答の声。
つ、と逸らして一瞬のちに、すい、と見据える視線の動きの深層で一体何が動いたか、多分自分にはわからない。
「それはでも羊蹄丸さんがきっと僕の事をなんにもわからないのと同じだよ」
これが芝居なら観客は席を立つ。総立ちで手を叩き、感動にむせび泣き、舞台の上の役者二人を讃えることなく、無言のままで席を立つ。
ああずいぶんと、下手を打った。
「そりゃ、そうですね」
「そうだよ」
「そんなものですかね」
「そうかもしれないね」
「こういう言い回し、嫌いじゃないんですか」
軽口の最中に本音を滑り込ませるのは反則だ、と誰からも教わってはいないのでここまで来たらもう一芝居、下手を打ってもいいだろう。
「好きじゃない、という程度かな」
装う無表情、仕切り直しの苦笑い。ふふ、と押し出す軽やかな声。まるでいつもの、時刻表。

喝采、あなたに。
いま俺はとても愉快です。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:しろい海峡のうた
2011年8月5日初出(Pixiv)てしおくんと流氷のはなし。はじめて挑む、流れる大陸。#GAS

それに関しての知識は持っていたし、資料として数値のたぐいは覚え込んでいたし、おそらくこの体はそれを本能的にとらえて対応する事ができる、そういう事を目的に作られているから問題ないとはわかっているのに、その事実は決してこれから対面する未経験の領域に有効であるという確信になりはしない。己の事のはずなのにいつの間にか遠い国の物語のように聞いていた自分が恥ずかしくなる。

色々なものを秘めて、隠して、そうして押し寄せる、一面の、しろいろ。

「───、そうやさん」

隣に立つその人の袖口はいつもちょうど手を伸ばした高さにあって、その両手は自分ではない誰かのためにいつも空けられているのを知っているから、あくまでそっと控えめにおこがましさに見ぬ振りをしてこそりと小さく袖を引く。
意識と視線が瞬間の時差で自分の方を向いたのがわかる。それなのにこの眼前に広がる白色に向けられた視線は動かせない。

「そうやさん、」

飽きるほどの、白色。
少し濁った、空の色。
ゆっくりと迫り来る、そうして足を絡めとる。

「つめたいです」

ふ、

「さむいです」

気をつけてゆっくりと、息を吐く。体内の熱を必要以上に呼気に乗せて吐かないように。
隣に立つこの人のすらりと伸びた背筋の中を、通る空気はあたたかだろうか。腹の奥から伝わるこの軽微な震えは一体、どちらの種類の震えだろう。

「そうだね」

引いたまま離さない袖口からそっと優しく指が解かれて、自分と同じ厚い布で守られた手が握られた。
まだ少し遠い波の向こう確実にそうしながら揺られて意のままにままならず流れてくる、白い群。

「往こうか、てしおくん」

耳を打つ声は低いと感じる少し上を響かせて、言葉と一緒に少しだけ力が入ったその右手にあたためられていた左手が、冷たい空気に解放される。
もう一つだけ深く長くの呼吸を一組、吐いた息は白く煙って風の中に消えて行く。いずれあの白い塊は陸地のような形相で己の行く先に横たわる。

どうかどうかそのときぼくが、はじめの一歩を誤りませんように。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:お台場から愛を込めて砂嵐を越える
2011年7月24日初出(Pixiv)文章が久しぶりすぎて震えます、愛され系宗谷さんと地上デジタル放送の話、と、そうやさんの受難。(時代が見える………)#GAS

まあこの世の中は便利になったもので画面を見ればこのあと自分の耳に悲痛な叫びを流し込むのが誰だか明確になってしまうのが少々うんざりするけれど、ここでこの着信を無視したところであとからふくれあがった面倒ごとが真正面からやってくるのは簡単に予想できたから、小さなうなりを上げる端末機械には心底うんざりさせられる。
乗らない気分を不穏な気配と判断して意識だけこちらに向けたせきれいを背中で感じながら、仕方がないので通話ボタンに指をのばす。ぷちり、とあっけない沈みこみがあって、瞬間、
「そうやくんちょっと聞いてくれるかい!」
耳から少し距離を置いて待ち構えていたのが幸いしてそれほど響かず済んだけれど、やはり大きなものは大きなもので息を一つためてこぼすには十分な声量が通話口から飛び出した。
遠くお台場でのんびり余生を過ごしているはずの先代はこの携帯電話という文明の利器を授かってから何かにつけしょっちゅう自分へこうやってさも世界の終わりに面したような悲痛な声で助けを求めてくるのだけれど、内容と言えば大体が第三者から見れば頭の上に乗った眼鏡を探しているような塩梅で、呆れながら助言とも言えないような言葉を二、三与えて終わるのが常だ。そうして今日に限って、今日のこの日のこの時間に限って言われる事と言えばもはや用件は一つしかない。
「なんですか」
なるべく事務的に、を心がけなければならない関係というのも面白い。それに気づいているのだかいないのだか、それともそれどころではないからなのか、極力の努力をあっさり流して話を続ける。
「てれびが!テレビが砂嵐になるって!」
「ええ、でしょうね」
己の予測が一言一句まったくもって外されなかったことに脱力しながら、電話の向こうで慌てふためくそのようが目に浮かぶ。そもそもあなたはテレビ見るんですか、と聞きたいところだったけれどこれ以上自ら話に踏み入って長電話をするのも本意ではないのでさっさと終わらせるように軌道を修正することにした。
「どうしたらいいと思う?これからテレビが映らなくなっちゃうんだって」
「でしょうね、以前から言われてたじゃないですか」
「昭洋くんが、なんだっけ…”わんせぐ”?とかいうので、あれ、携帯電話でテレビが見られるっていうのを教えてくれたんだけれど、僕のじゃ受信しないみたいなんだ」
「でしょうね、簡単携帯ですから」
「どうしたらいいとおもう?」
「知りません。あなたパンフレット読まなかったんですか」
「読んだよ…仕組みは理解したよ…」
「それでどうして何の対策も行わないんですか」
前もってわかっていることに対してどうしてここまで大騒ぎできるのか、理解の範疇だ予想の範囲だそういったところを全部乗り越えたところで思考するらしい先代の慌てぶりが、それに対して打開策を求められているこの状況がだんだんとイライラに変わるのにもそうそう時間はかからない。
「そもそもあなたはテレビ見るんですか、日常的に」
「あんまり見ないかな」
「けろっと言うな。見ないならそれで良いじゃないですかどうしてそんなに大騒ぎするんです」
「でもたまに見たいじゃない、ニュースでそうやくんが出てる時とか」
「やめてください、恥ずかしい」
ああ、何だってこの人は。
しかし少しでもしょんぼりなんて書き文字が後ろに見えるような顔で声で困ってるんだと一言、言われてしまえばどうにかしてどうにかしてやりたいと思ってしまうのも事実でそれはつまり自分の中の唯一の弱みと言っても過言ではなくてそしてそれは大体誰にでも当てはまるらしい。つまるところ自分でなくてもこの電話の内容をそのまま他のどこかへ向けてしまえばこんな冷たい対応ではないもっとあたたかで的確で迅速な対応が受けられるというのに、何だってこの人は、
「そうや」
「どうしたの、せきれいくん」
話し中だけれど、と視線を向ければその先には何とも言えない複雑な顔。
「なんだかんだでもう30分は喋ってるぞ。気づいてないから言うけど」
「わー、せきれいくんいるの?ちょっとお喋りしたいかもしれない」
「ちょっと黙っててください」

——ああ、これだから。畳む

一次創作,擬人化

映画感想:「NOPE」はいいぞ、永遠にいいぞ。
大好き映画「NOPE」がアマプラ見放題になったので改めて感想すべてがネタバレ。#映画感想

本当の本当に一部ホラー映画の表現はどうしようもないとして創作をする人類みなすべて一回は観てほしい映画すぎて、ことあるごとに人様の耳元で「NOPE……いいよ………」って小声で囁く妖怪なんですが、いや本当によかった……………毎回良い……………。

けっきょくホラー映画の皮をかぶった怪獣大戦争映画だと思っているんですが、びっくり要素や怖い音がたくさんあるのは仕方ないね…という感じなのでおすすめし辛さと人の選び方が尖っているんですけれども、散々言われているように創作物をエンターテイメントとして消費するにあたって動物をはじめとるすもの言わぬ立場の弱いものの搾取や「見えなかったことにされている」もの、ものが言えるけれども同じものとして扱われない現状(人種や出自などのあらゆる差別)、これ(映画本編)を観てなにかを思っているお前たち観客はあのGジャンといういきものを「観て」いるので本来は喰われる立場にあるのだぜという静かな提示、撮影にとりつかれて自分の命がどうでもよくなってしまったひと、勝手に監視カメラの映像は見るけど(倫理……)すぐに「(馬の)家族だぜ」と言い返せるひと、そしておそらく人種と立場(おそらく映画制作において人間の言うことを聞かない動物は基本的に下に見られており、それにうまく言うことを”聞かせられない”調教師も含めて疎まれていても仕方がないのだ。だから仕事がない)のせいで最初から「なかったもの」にされているひとの放つ「見たかよ!」の声…………………すべてが………………。

ものを創るとき誰かを傷つけずに済むと言うことは絶対になくて、どんなに救いのある話であろうと「救い」が生まれるためには救われていない状況がまず発生していないといけなくて、それを無視して例えば主役を立てるためだけにマイナス部分を負わされているキャラクターが不可欠で、それが人間であったり動物であったりそのときどきで異なるのだけれど、往々にして「そういうところ」に置かれやすい属性ってどうしても決まってくるじゃないですか、淘汰で。
毎回最後が怪獣大戦争映画になるのはちょっと面白いな、と純粋にエンターテイメント作品を観る気持ちになるんですけどあの作品が抉りたいところを考えるときっとそういう「なんでだよw」みたいな軽い笑い(そしてそれは往々にして我々の無意識下の選別で”下”、”これは自分が笑っていいもの”という判断をくだされたもの)ですら観客が気がつかないところでやっている選別を狙ってきていてもおかしくないな、と思うわけです。

こういう考え過ぎか?という考察をさせるだけの余白と、情報量と、恐らくは、という予感や回収されなかった要素、あえて描かれなかった要素のことを考えると、ホルストの服薬の事情とか少し足に怪我かなにか抱えているような動きとか、エンジェルの家族構成とかバックグラウンド、ジュープのあまりにも人生の早い時期に経験してしまった神秘的(ともいえる残酷な、神は大体残酷なので)な体験がこびりついてしまった魂のこと、あの世界には存在するけど特に今回の話には関係ないから描かないぜ、で済まされたあらゆることが「その不明点が気になって進めない」ではない程度に調節されて提示されるの本当にさじ加減に対しての感情が鋭い。

今週末、Twitterのオンライン映画部という集まりでみんなで観る予定もあるので楽しみにします。へへ……。畳む

つらつら

二次創作:酔っ払い二人が並んだテーブルでまともな話が出るはずもなく
2021年1月3日初出(Pixiv)
平気で二人とも成人している卒業後。左右不定のふんわり巨大迷路感情をお楽しみください。
酔っ払い二人が並んだテーブルでまともな話が出るはずもなく(タイトル短歌)#九龍妖魔學園紀


酔っているにしたってたいそう長く思案したあとに絞り出された声はそれはもうあらゆる感情を煮詰めて凝ったどろどろの粘度をしていて、すでにたいそう酔っていた自覚のある俺にすら腹の底から笑い飛ばした方がいいのだと思わせる声であったのだ。
曰く、お前の俺に対する感情の名前はなんなのだ、と、話の流れで訊いてしまった。
「──……ぞ、」
ぞ?
「憎悪…………………………………」
要らないくらいにたっぷりと語尾の余韻を含ませて、あだ名で呼んで久しいそいつは系統樹並のめちゃくちゃな複雑さを湛えた顔で、それでも目だけは逸らさずに言った。
「ぞうお」
馬鹿みたいに音をなぞり返す呂律は、酔っ払いに相応しく浮ついている。舌先にざらりと何かが残る。
「お、れとしましてはこうちゃんについてなんていうんですか一種のこう、いわゆるひとつの、ねえ、そういう、なに、じぶんでもわからない感情を、こう、ばかでけえなあ、持て余すなあと思いながらね、捨てたくねえなあ、っておもっていきているわけなの、これ前提ね。わかる?」
「わかる」
わかる。──わかっていたい、が本音ではある。
さっきまで緩やかに握られていた液体のたゆたうグラスは、今その小さくも大きくもない手の平にしっかりと握り締められて純粋な握力に震えている。なにせこいつの手の平は林檎を砕くのだ。
「おれ、おれはね……でもたぶんそれを俺以外の世界が俺以外をして言う愛だとか恋だとかそういう、そういうお綺麗な枠組みに収めたくなくて、そんなお姫様の宝物みたいに扱いたくなくて、俺の大事に仕方はほら、一緒にいつも持ち運んでずっと握っていたからずるずるに溶けた残骸だけ残っても、俺はそれでもいいから、そういう、そういう俺なりの大事にしかたを、こうちゃんは好きに生きていいんだけどこの好きはこうちゃんの主体によります、それで」
だから、とお互いの間のちょうど中間、何の罪もないテーブルの板を穿つように見つめるくせにやけに空虚な目をして続ける。
「俺はこれを憎悪と呼びたい」
冷静に持論が結ばれる。結論は出た。これ以上は揺るがないだろう決意でもって、結論は出た。
「そうか──グラスを割るなよ」
前頭葉が溶けていきそうだ。最後の一つなんだ、そのグラスは。
客に振る舞う分として用意した透明なグラスは、ようやっとその一言で馬鹿みたいな力で引っ掴んでくる物騒な客の手から文字通り解放された。
何かを吐き出し切ったように項垂れる頭頂部がゆっくりと鼓動の倍数で左右に揺れている。どのみち両者、酔っ払いなのだ。
完全に顔面を覆う細く長い髪の間から、酔っ払い特有のふわついた笑い声が漏れる。
「──ふふ、なに、分類するのが好きになっちゃったの?研究者先生は」
そういうこいつも隠されたものを暴き出しては右から左へ分別したがる職業のくせに。
冷静なつもりで言ってやれば、お互いさまでしょ、と望んだ答えが望んだ通りの場所に返ってくる。
「分類といえば俺がこの前遺跡で食べたら三日くらい幻覚みたキノコの話していい?」
「初耳だぞ、九ちゃん」
「いまはじめて言うもん、いやなに、聞いて、聞くだけ聞いて。罪滅ぼしなんだから。全部幻覚だったんだけど──」
酔っ払いの夜は更ける。明日の朝の色は知らない。畳む

二次創作

日記:COMITIA144ありがとうございました。
この日記は帰りの電車で必死に意識を失わないように書いています。支離滅裂でも気にしないでください。

思ったより気温が高くて、夏日に対応できる服装で出かけたのはもちろんなんですけど思ったより体力を消耗しています。開場直後くらいまではお手洗い近くて困ってたくらいなんですけど、徐々に水分を取ってもお手洗い行きたくないな……?という状況に。おそらく静かに汗とかで蒸発しているんでしょうね。
塩分はそこまで考えていなかったので絶賛熱中症の初期症状みたいになっています。お腹も空いている。無事に家に辿り着きたい。

今回のコミティアは推察するに新型コロナウイルスによる影響がほぼない状態であったのか、机同士の間隔も狭くて「こんなだったっけ?」となりながら設営しました。さらに同じ島の後ろの列との間隔も狭くて、片方の端っこサークルさんが床に置く型のポスタースタンドを大きめのキャリーバッグで押さえる手法をとってらしたので完全に出られず、反対側も途中に二つそれぞれ後ろ同士で同じタイプのポスタースタンドを立てていて狭い通路がさらに狭く……という状態でなかなかこれは我々が思い出し運営が思い出しそれぞれが気をつけないと倒れたり倒したりが出るぞ……と思いました。床に特にテープ固定とかされてないところ通るの怖いですね。

次は受かっていたら夏コミ(C102)、そのあとに擬人化王国、次いでCOMITIA145の予定です。まーたこいつ二週連続イベント参加するぞ……って自分が一番思っています。

つらつら

日記:時間が経つのを待っている
文字通り待っています。本来この間にやることはたくさんあるんですが………お風呂掃除とか…食器洗うとか……これはよく言われることなんですけど、生活をやっていると創作ができないし、創作をやっていると生活ができなくないですか!?あまりにも片一方にしか労力を割けない。でも多分いい割合というのがあるはずなんだよな。

ともあれ明日はコミティアです。ここしばらく新刊を出していないし、コミティアが終わったら次の予定が受かっていればC102なので流石に新刊出したいなの気持ちが大きいんですが、ここ最近コピー本以外の本を作っていなくて(嘘です、小説なら出してます)どうしたらいいんだ……みたいな気持ちです。
とりあえずコミティアに向けて用意しておいて寝かせてある「擬人化、一次問わず創作キャラで髪の毛長いやつを全員描く」というコンセプトの長い髪の毛だけ描いていたい欲求を満たす本でも作ろうかな。

つらつら

日記:成果、出ているのでは?
なんとなく5月1日に普通に日記を書いて、そのことにしばらくしてから気がついて、「習慣づいているのでは?」と気がつきました。いま!?今だよ。習慣というのはもう意識することなく行われるものなので、これはもう習慣づいたのでは…………?誰だよ三日で習慣になるとか言ってた人間、かなりかかってますよ。個体差。

もうひとつなんとなくの変化として感じるのは文章を書くことへの心理的ハードルが下がったこと、何か物を言うときに「でも結局うまく言えないし」とならないこと、言葉選びが以前の標準値に戻りネットミームなどの簡単にニュアンスは伝わるが使われている言葉自体があまり良くないものを無意識に使わないようになったことなどです。良いんじゃない………?

とはいえ毎回タイトルはわからないし書くこともピンときていないし、書いたところで寝て起きたら「これ書く意味あった……?」になっているのは変わらないんですが。きっと来週あたりに体調不良で寝込んでまた泊まったりするんでしょうけど、ぼつぼつやっていきます。

つらつら

日記:オンイベの準備なんもしとらん。
この場合の「なんもしとらん」は「実際はやってる」ではなく本当の意味での何もしていないです。まじで何もしてないやばい。
そもコミティアとか擬人化王国とかのオフラインイベントもわりと最近新刊を出していないので(出してもコピー本。本は本だが?!)訂正します、出してます、出してますがこう、なんていうんですか、準備の手間がこう、物理的じゃないですか、オフラインイベントは。
オンラインイベントはそういうのがなくて気軽に参加できる、展示だけでもいいよ、という気軽さが助けになるんですがこの締め切りが見えないと作業ができない上にギリギリに仕上げて「前回できたからまだ余裕ある」みたいな最悪の学習をするタイプの人間には変なベクトルの入り方すると直前で「ア゛!!!!!!!!」って叫ぶことになるんです。がんばります。

つらつら

擬人化:海上保安庁発足日によせて
過去に発行した同人誌から、成り立ち部分の漫画を。#GAS
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一次創作,擬人化

日記:出した同人誌の一覧欲しすぎて困っている
タイトルの通りです。必要なら作れよ、というところなんですがお借りしているてがろぐのテンプレートがシンプルを心がけているため(そしてそれに非常に満足しているため)、表を……今から…HTMLとCSSを…書く……?になっており、手間への心理的ハードルが高すぎて越えられないという感じです。そこまでしなくてもタイトル・サイズ(A5統一)・ページ数・あらすじがあればいいんでしょうけども………やるか…………。

どうでもいいことですが、価格を書かないのは単純に会場頒布と通頒で価格が違うからです。この辺も別にシステム利用料とかの都合になるので最近はあんまり気にしなくても良くなりましたね。

つらつら

2023年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:アフタヌーンティークルーズ
ロイヤルウイング通常営業最終日ということで(本当はご一緒したフォロワーさんとの都合もある)アフタヌーンティークルーズに行ってきました。結論、曇りだったけどめちゃくちゃよかった!の話です。

わかっていたけれど「船に乗っていると自分の乗っている船が見えない」んですよね、これはごく当たり前の話をしていますが船に熱をあげている人間は改めてそれを船内で「あっ……………」というタイプなのでこの辺は気にしなくて良いです。天気は曇りで、最終的に少し雨もパラついたんですが全体的には湿度が高いけど寒すぎも暑すぎもない感じでよい気候でした。
アフタヌーンティーなので自分で選択肢の中から選ぶドリンク、基本的に飲めるフリードリンク(複数種類)があって水分いっぱいでした。これは調子に乗って飲むとお手洗いが厳しいぞ………!船内、もちろんお手洗いもあるのですが、一般的な商業施設とは数や大きさも異なるのでそのあたりはご自分の肉体と相談していただければ良いと思います。

アフタヌーンティーといえばあの三段の食器に並んだ軽食たちなんですが、下段に揚げ物(胡麻団子とかなにか美味しいものを包んで揚げたもの、春巻き)真ん中に美味しいお肉(たぶん一つは鴨肉)に美味しいソースがかかったものと帆立(単体)、上段にマンゴープリンと杏仁豆腐(容器がハイヒールみたいだった)と船の形をしているチョコレートムースケーキ(下がベリーを乗せてあるパイ生地なの天才)でした。あとは小さいセイロに焼売、エビまん(名前を忘れました。えびおいしい)、翡翠饅(生地にほうれん草が練り込んである)が一つずつ並んでいて「ご、豪華!」という様相。つよい。孫(人間)においしいものをいっぱい食べさせるぞ、という気概を感じる。

量が多くてゆっくり食べていたらデッキに出る時間がそんなになくなってしまって、終盤にデッキに上がったら後ろから「ぶこう」(PL10:横浜海上保安部所属)が入港してきてて「どえわ〜〜〜!!!!」「嘘でしょ」「まって」を連呼して大騒ぎしました。反省。
下船してからは大さん橋の上から港を眺めたり、次の便に出向していくロイヤルウイングを見つめたりいろいろして楽しかったです。
昨日までの怒涛の仕事の疲れのせいであらゆる文章がふわふわしています。

つらつら

日記:タイトルもうわからん
相変わらずです。だからタイトルってなんやねん、はあらゆるタイトルが必要そうな何かを作るときに毎回思います。
そしてとても眠い。

つらつら

日記:なんだかなんだか
今日も絶賛忘れそうだったのでとりあえずMisskey.designのアカウント載せておきます。裏参道(https://misskey.design/@ura_310)です。

Misskeyてそもそもなんやねん、の説明はこの世の他の説明がわかりやすいのでここではしませんがまあSNSであるという点だけ覚えておけば良いんじゃないでしょうか。Twitterくんのお行儀が悪いあいだはおそらくずっとみすでざ(Misskey.designは”みすでざ"という略称で呼ばれています)にいると思います。
一応、二次創作(表参道名義)はにじみす.moeというインスタンス(サーバー)にいます。表参道(https://nijimiss.moe/@omote_310

絵文字でリアクションができるので気軽な気負わない交流一歩手前、みたいな反応ができるのがのんびりしていて好きだなと思っています。Discordの方には参加していないので昨今の不穏とかは知りませんがなんかあった余波だけ感じたりしているけど……基本的には与えられるものを口開けて待ってるタイプなので消えたらまあここがあるし……みたいな、おそらく一番参加者として最悪な部類にいる自覚だけあります。

つらつら