散る散る満ちる。

擬人化を含む一次・二次創作もろもろサイト。転載禁止。
感想やいいねと思ったことなど、お気軽にWaveboxへ。絵文字だけでも嬉しいです。

No.52

擬人化:しろい海峡のうた
2011年8月5日初出(Pixiv)てしおくんと流氷のはなし。はじめて挑む、流れる大陸。#GAS

それに関しての知識は持っていたし、資料として数値のたぐいは覚え込んでいたし、おそらくこの体はそれを本能的にとらえて対応する事ができる、そういう事を目的に作られているから問題ないとはわかっているのに、その事実は決してこれから対面する未経験の領域に有効であるという確信になりはしない。己の事のはずなのにいつの間にか遠い国の物語のように聞いていた自分が恥ずかしくなる。

色々なものを秘めて、隠して、そうして押し寄せる、一面の、しろいろ。

「───、そうやさん」

隣に立つその人の袖口はいつもちょうど手を伸ばした高さにあって、その両手は自分ではない誰かのためにいつも空けられているのを知っているから、あくまでそっと控えめにおこがましさに見ぬ振りをしてこそりと小さく袖を引く。
意識と視線が瞬間の時差で自分の方を向いたのがわかる。それなのにこの眼前に広がる白色に向けられた視線は動かせない。

「そうやさん、」

飽きるほどの、白色。
少し濁った、空の色。
ゆっくりと迫り来る、そうして足を絡めとる。

「つめたいです」

ふ、

「さむいです」

気をつけてゆっくりと、息を吐く。体内の熱を必要以上に呼気に乗せて吐かないように。
隣に立つこの人のすらりと伸びた背筋の中を、通る空気はあたたかだろうか。腹の奥から伝わるこの軽微な震えは一体、どちらの種類の震えだろう。

「そうだね」

引いたまま離さない袖口からそっと優しく指が解かれて、自分と同じ厚い布で守られた手が握られた。
まだ少し遠い波の向こう確実にそうしながら揺られて意のままにままならず流れてくる、白い群。

「往こうか、てしおくん」

耳を打つ声は低いと感じる少し上を響かせて、言葉と一緒に少しだけ力が入ったその右手にあたためられていた左手が、冷たい空気に解放される。
もう一つだけ深く長くの呼吸を一組、吐いた息は白く煙って風の中に消えて行く。いずれあの白い塊は陸地のような形相で己の行く先に横たわる。

どうかどうかそのときぼくが、はじめの一歩を誤りませんように。畳む

一次創作,擬人化