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二次創作:君がくれた朝焼け
2021年12月26日初出(Pixiv)皆守甲太郎のこと全然わかんないまま17年くらい経ちます。そう言う話です。ネタバレを含みます。#九龍妖魔學園紀

無駄に三回、シャープペンシルの尻をノックしてようやく、判別のつかなかった感情の枠組みを怒りだったのかなと推定することにした。
死ぬような思いをして結局は手柄を横取りされたような任務でも、その感情は一切排したレポートというものを書かなければならなくて、素晴らしいことに俺はそれを事前に一度手書きで組み立てるという作業をするのだ。先輩方には鼻で笑われてるけども。
紙面から排した感情は、排された感情は、その真っ白さに跳ね返されてもやもやと胸の辺りを圧迫してくる。そのもやもやから目を背けたくて始めた作業は、学生の部屋に似合いの簡素な机の上にも持て余されて、ついにこの根城いっぱいにうっすらと沈殿してしまった。
すでに決まった結果はあまりにも大きくて頑丈で、ちょっとやそっとでは絶対に、たとえどんな準備をしていたとしても「そう」なるしかなかったようにまぶたの裏にこびりついていて、いつなんどきそれを振り返ろうが、いま抱いている感情を明確に思い出せるんだろうという確信ですらある。己を信じる第一歩はすべての己を疑うことで、一夜明けて八時間寝たそうとう冴えているはずの頭で何度「そうではなくない?」と問いかけたところで出てくる答えが一緒なのだからたまったものではない。
否定を寄越す相手はいない。そんな問答がどれだけ頭の中で余計なことを考えさせるか、だとしたらもっとあらゆるものを削ぎ落としておけば良かったと後悔が喉を迫り上がってくる。
机に向かって答えが出ないなら、とこれまた簡素なベッドに寝転んでみても、なんやかんやと人からもらったものたちが徐々に隙間を埋めて行った結果、書き物をするときにどうしてもどけたいものの、調理器具を床に置くのも気が引けてベッドの足元に鎮座することになる、その銀色の寸胴鍋がぎらぎらと視界の隅を焼く。
ぐぅ、ともうぅ、ともつかない唸りが喉だけ震わせて、結局気づけば食いしばっている歯の隙間から漏れ出ていく。
「さいしょっから、」
最初から、傷つけてばかりいたのは、たぶん、俺の方なんだろう。
隣に居づらくさせていたのは。それでも馬鹿みたいに些細なことで笑わせて、くだらないことで盛り上がって、「そう」させていたのは。
最後にそっちを、選ぶくらいには。
「──……あっべ、歯ぎしりしすぎて奥歯欠けたやつって経費でなんとかなるか?これ……?」
いっそ根本から抜けてしまえば戦闘中のどうとやらでごまかしも利くだろうに、大規模な戦闘が終わってひと段落ついた日中に、そういえば歯が欠けていましたなんてどう考えても追求される。
「いやいやいや新人だし……多めに見ろ……はぁ?……………」
てのひらの上ですら見失いそうな小さな骨の欠片は不釣り合いなほどに白くて、骨なんだよなという属性を主張してくる。どうした、それを見せるの、俺でいいのか。
「おれになにみせたかったの──?」
遠く、ためらいがちなスリッパのやる気のない足音がする。
しばらく待てばこの部屋の前でためらいがちに立ち止まって、きっとその長い指の関節が控えめにドアをノックする。きっと俺はどうぞと言うし、開いてるよって言うかもしれない。
右手に欠けた歯を握りしめて、ゆっくりと体を起こす。今になって欠けた奥歯のあたりに遡った血流を感じる。どうやら緊張しているらしい。
引きずるような足音がドアの前で止まって、静かな部屋にノックの音が響く──俺はいつまでも動けないでいる。畳む

二次創作

二次創作:酔っ払い二人が並んだテーブルでまともな話が出るはずもなく
2021年1月3日初出(Pixiv)
平気で二人とも成人している卒業後。左右不定のふんわり巨大迷路感情をお楽しみください。
酔っ払い二人が並んだテーブルでまともな話が出るはずもなく(タイトル短歌)#九龍妖魔學園紀


酔っているにしたってたいそう長く思案したあとに絞り出された声はそれはもうあらゆる感情を煮詰めて凝ったどろどろの粘度をしていて、すでにたいそう酔っていた自覚のある俺にすら腹の底から笑い飛ばした方がいいのだと思わせる声であったのだ。
曰く、お前の俺に対する感情の名前はなんなのだ、と、話の流れで訊いてしまった。
「──……ぞ、」
ぞ?
「憎悪…………………………………」
要らないくらいにたっぷりと語尾の余韻を含ませて、あだ名で呼んで久しいそいつは系統樹並のめちゃくちゃな複雑さを湛えた顔で、それでも目だけは逸らさずに言った。
「ぞうお」
馬鹿みたいに音をなぞり返す呂律は、酔っ払いに相応しく浮ついている。舌先にざらりと何かが残る。
「お、れとしましてはこうちゃんについてなんていうんですか一種のこう、いわゆるひとつの、ねえ、そういう、なに、じぶんでもわからない感情を、こう、ばかでけえなあ、持て余すなあと思いながらね、捨てたくねえなあ、っておもっていきているわけなの、これ前提ね。わかる?」
「わかる」
わかる。──わかっていたい、が本音ではある。
さっきまで緩やかに握られていた液体のたゆたうグラスは、今その小さくも大きくもない手の平にしっかりと握り締められて純粋な握力に震えている。なにせこいつの手の平は林檎を砕くのだ。
「おれ、おれはね……でもたぶんそれを俺以外の世界が俺以外をして言う愛だとか恋だとかそういう、そういうお綺麗な枠組みに収めたくなくて、そんなお姫様の宝物みたいに扱いたくなくて、俺の大事に仕方はほら、一緒にいつも持ち運んでずっと握っていたからずるずるに溶けた残骸だけ残っても、俺はそれでもいいから、そういう、そういう俺なりの大事にしかたを、こうちゃんは好きに生きていいんだけどこの好きはこうちゃんの主体によります、それで」
だから、とお互いの間のちょうど中間、何の罪もないテーブルの板を穿つように見つめるくせにやけに空虚な目をして続ける。
「俺はこれを憎悪と呼びたい」
冷静に持論が結ばれる。結論は出た。これ以上は揺るがないだろう決意でもって、結論は出た。
「そうか──グラスを割るなよ」
前頭葉が溶けていきそうだ。最後の一つなんだ、そのグラスは。
客に振る舞う分として用意した透明なグラスは、ようやっとその一言で馬鹿みたいな力で引っ掴んでくる物騒な客の手から文字通り解放された。
何かを吐き出し切ったように項垂れる頭頂部がゆっくりと鼓動の倍数で左右に揺れている。どのみち両者、酔っ払いなのだ。
完全に顔面を覆う細く長い髪の間から、酔っ払い特有のふわついた笑い声が漏れる。
「──ふふ、なに、分類するのが好きになっちゃったの?研究者先生は」
そういうこいつも隠されたものを暴き出しては右から左へ分別したがる職業のくせに。
冷静なつもりで言ってやれば、お互いさまでしょ、と望んだ答えが望んだ通りの場所に返ってくる。
「分類といえば俺がこの前遺跡で食べたら三日くらい幻覚みたキノコの話していい?」
「初耳だぞ、九ちゃん」
「いまはじめて言うもん、いやなに、聞いて、聞くだけ聞いて。罪滅ぼしなんだから。全部幻覚だったんだけど──」
酔っ払いの夜は更ける。明日の朝の色は知らない。畳む

二次創作

二次創作:結局、我々は敵の言葉ではなく友人の沈黙を覚えているものなのだ。
タイトルはキング牧師のことばから。
実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。
生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀
主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg


実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。
高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。
それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。
何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。
ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)
「やることがさぁ……コスいんだよな」
呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。
姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。
「人間ドックタグ……ってか」
鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。
死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。
伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。
相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。
「まー、何でも良いんだけどね」
着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。
「うぇ…今日は折れないと良いな」
火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。
五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。
着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。
持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。
窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。
暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。
昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。
「お待たせ。じゃ、行こうか」
空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。
ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。
今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。
「まずそこからだよなぁ」
不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。
未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。
こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。
端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。
「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」
先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。
土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。
あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。
「生きてるって楽しいねぇ!」

骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。
踊りながら、死と笑う。畳む

二次創作