二次創作:結局、我々は敵の言葉ではなく友人の沈黙を覚えているものなのだ。タイトルはキング牧師のことばから。実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg続きを読む実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)「やることがさぁ……コスいんだよな」呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。「人間ドックタグ……ってか」鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。「まー、何でも良いんだけどね」着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。「うぇ…今日は折れないと良いな」火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。「お待たせ。じゃ、行こうか」空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。「まずそこからだよなぁ」不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。「生きてるって楽しいねぇ!」骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。踊りながら、死と笑う。畳む いいね ありがとうございます! 2023.4.23(Sun) 10:53:11 二次創作
タイトルはキング牧師のことばから。
実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。
生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀
主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg
実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。
高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。
それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。
何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。
ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)
「やることがさぁ……コスいんだよな」
呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。
姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。
「人間ドックタグ……ってか」
鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。
死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。
伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。
相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。
「まー、何でも良いんだけどね」
着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。
「うぇ…今日は折れないと良いな」
火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。
五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。
着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。
持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。
窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。
暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。
昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。
「お待たせ。じゃ、行こうか」
空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。
ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。
今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。
「まずそこからだよなぁ」
不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。
未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。
こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。
端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。
「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」
先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。
土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。
あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。
「生きてるって楽しいねぇ!」
骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。
踊りながら、死と笑う。畳む