散る散る満ちる。

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No.55

擬人化:あなたのとなりを、
2012年4月27日初出(Pixiv)つらつら書いていたら羊蹄丸さんの片思いになりました。携帯電話というのは便利な半面倒にもうすっぺらなフィルタが一枚かかってしまう短所があるように思います、という話。#GAS

たとえばあなたへの言葉を明確な輪郭に乗せたとして、それはたぶん感謝のかたちしているのだろうと思う。そうしてそれを簡単に伝える方法はあるのに、安易にその形式に乗せてあなたへ飛ばしてしまいたいとは思わない。

静かにたたずむようになってからしばらく、内側に抱えた容量と同じだけの虚無と空間を持て余すように過ごした日々にしっかりと残ってしまったとなりのアラートオレンジ。
小さく起きた岸壁への反動、そんな波にもよく揺れるどことなく不安定な丸みの際立つその流線。ずっととまって動かずにいるせいで、すっかり色のあせてしまった左側。
外からも内からも波と気候と生まれてからの歳月に蝕まれて、もはや人の立ち入ることの出来なくなったところすら抱えて、ひっそりと静かに賑わうその眩しいくらいの太陽の色。現役時代に見慣れていた一面白色横殴りの吹雪でも、きっと容易く見つけられる、そうして実際それを目的に塗られたその色。時代と人の願いを背負った希望の色と言ってしまったらそれは過言がすぎるだろうか。

低く掠れた、何人の名前を呼んだだろうか想像もできないゆっくりと震えるその声で呼ばれる名前が好きだった。遠い潮騒と暗い雨音にかすんでしまうその声が耳から入って抜けるとき、それに対して敬意でもってなんですかと問い返す己が誇らしくすらあった時もある。思い出は美化されて、想像は都合がいい。

決して同じ方向としての矢印ではない返される言葉と、あなたが気がつかないならそれでとおこがましく放った己の言葉と、その応酬を続けたいがためにこの無機質な塊が映し出す単調な連打の継続で綴る文字を駆使するのはなんだかもったいない気がする。だからといってそんな無機質の塊を通した声がその裏側の思いを問答無用に裏濾ししてしまうのも気に食わない。己の気持ちが隠れることではなく、あなたの気持ちを読み取れないことが。

覚えてしまったあなたの癖も、繰り返される同じ話も、聞くたび異国の話のようで事実その大半ははるか南の極地のことであったのだけれど、なぞるごとに一筋ずつほどけていく氷河にも似てあなたに近づいた錯覚すら感じたそのきらめく時間の数々。ずいぶんと感傷的なのは笑ってください、と誰に向けるでもなく口角を上げたところでそれに対する相づちも苦笑いも返ってはこないのだけれど。

いまここで、あなたの名前を呼んでもいいですか。
盛大に、己に幕を下ろすその前に。

恋、というにはあまりに単調で無頓着だった。愛、というには少しばかり執着がすぎた。
それは所詮、それらの感情への理想論から著しく外れていたというだけのことだけれど、それでも確かにあなたに抱いた感情は尊いものであったと思う。あれほど恐れた何の変化もなくなってしまう日々に、気がつかないほど少しずつ薄れていつかそのままいなくなってしまうのではないかと日々をおびえたはずなのに、今となってはもう、それが一番正しかったのだとすら、おこがましいほど取りすがる。

夜、世界は眩しくなりすぎた。それでも、海というものは真っ直ぐに暗い。
いつか聞いた明けない夜と暮れない夜の話がよぎる。そんなのはまっぴらだと、想像だけで笑った己も、その隣も。
誰の許しもいらないはずなのに、誰かに肯定して欲しくて泣きそうなほどの星空からつま先へ視線を投げる。


いまここで、あなたのなまえをよんでもいいですか。畳む

一次創作,擬人化