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2023年5月の投稿25件]

2023年5月24日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

擬人化:昔の絵のまとめ01
2011〜2018年ごろまでの一枚絵をなんとなくまとめました。#GAS

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映画感想:「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」には慣性の法則があるから、いい。
最新作観てきた!!!最初から最後まで全部ネタバレに容赦がないし、ラベンダーに傷を負っているのでちょいちょい言及しているけどわからないひとはスルーでいいです。#映画感想

ネタバレではない感想ツイートで「車を運転すればすべてが解決した時代はなかったよ」との由、すでに見てはいたんですが本当に別にすべてのことが車を運転すれば解決していたわけでは全然ないからな!!!!!!!!でした。あ〜〜〜おもしろかった最高でした、ワイスピに我々が求めているもの全部乗ってました(車だけに)でも推しは死んだ。

推しは(たぶん)死んだ!!!!!!!

いやほんとどうして………どうして………ジェイコブおじさんはこれからの男だろ………何であんなに丁寧に「兄の子」と「ちょっとはちゃめちゃなおじさん」のファミリーロードムービーやってからのあれなんですか?いやわかるんですよジェイコブおじさんは兄にずっと引目があって前作のこともあって兄がずっと光の方にいたから自分は闇の、影のなかにずっといるって思い込んでて、それが前作で覆って明るいところを過去は変えられないし精算できないとはいえ(何せ普通にやっていることは法に反しているのでいるべき場所は全員刑務所である)、やっとファミリーを得て、ワイスピ世界で一番大事な家族の手を再び掴めたんだから、だから、そこに感謝をする男だから、恩を感じてしまうひとだから、恩返しをしようと自分の命を賭けられる生き様のひとだから、あそこで自分を犠牲にしてドムを生かすんだよ…そうだよジェイコブ・トレットとはそういう生き方の人間でありました………………推理小説をこよなく愛するものとしては死体を自分の目で見ない限り生きている可能性が否定できないし、ハン(推し)が死んだと見せかけて生きていたパターンもあるので明確に死んだと言われるまで「やや死んだ」という表現を使いますが……どうして………ちゃんと甥っ子に言葉遣いを正す極悪なひょうきんおじさんジェイコブ、永遠に推す。ドムと和解(したのか?)してから実は一回でいいからやってみたかったこと「誕生日ケーキをでかいホールケーキにしてみんなで食べる」とかをやってくれ。

ともあれ、ストーリーはいつものワイスピでした。ちゃんと重力と慣性の法則と遠心力がある世界は安心しますね。ばかすか車の馬力と速度にもの言わせて当然のように爆発するし、当然のように車を使って物事を解決します。そうなんですよ、ドムたちは別に車の運転ですべてを解決しようとしていたわけではなくて、すべての解決のために車を運転していただけで一つの手段でしかないんですよね。だから飛行機も出てくるしヘリも出てくるし、まあそれらも全部車の運転のせいで主に爆発などをするんですが、観客はそれを求めているので変なギミックでてくるたびにきゃっきゃきゃっきゃしてました。心の中の幼児が大喜び。でも俺は自分の乗っているバスにでっけぇ鉄球(何で中性子爆弾なんやねん)が突っ込んできて車体が真っ二つになるときの対処法を知らないので、頼むから防災センターとかで急に近くでカーチェイスが始まったときの対処法を教えて欲しい。あれはもはや公害だよ備えるべきだよ国民が。異世界転生でワイスピ界に転生したと気づいた瞬間、俺は四方を道路に囲まれていない土地に暮らすことを決意しますからね………でも飛行機の貨物室からバックでの車庫入れみたいな気軽さで車が落ちてくるからな………もうだめだな…………話が逸れました。

数日前に前作を観ていたこともあって直近の流れは把握しているし、予告編も観ていたので「ああ〜〜〜〜〜ええ〜〜〜〜〜!??!??!?!なるほど〜〜〜〜!!!!!?????」という純粋な驚きでずっと楽しかったです。さ、最後、最後潜水艦から出てきたひと誰ですが俺はマジでまったく人の顔と名前が一致しなくて………あとホルガ姐さん(ホルガ姐さんではない)がまた寒いところの監獄に閉じ込められて…かわいそう………どうでもいいですけど極秘機関の極秘刑務所みたいな字幕出たの、文字が重複しすぎてだっさくて好きでした。まともなフリしようとしてる頭おかしい組織の趣がある。口から罵詈雑言が時速150kmくらいで飛び出してくるようになるのもワイスピ観賞後の醍醐味。嘘です。

ワイスピ、全編を通してちょいちょい家族愛というか人間同士の絆に重きと善性を置きすぎている感もあるんですが、家族って言ったって他人同士なんだからそんなにみんながみんな「家族のために」って命かけたり奔走したりする必要は全然ないんですが、でも俺たちはそれをやるぜ!!!!っていう勢いがあっていいですね。他人のために自分の全部を賭けることができる人間は、過去に自分に対して周囲からそういう助けを得られたことがある人間たちなので……性根が悪だとそうではないので………あと今回はドムが目の前で犠牲になりそうな命を明確に選ぶ描写があって、そのあたりも今までと一線を画してきた感があります。
結局女を選ぶのかよ、みたいな感想を今のところは見かけていないのと、状況を考えると単に間に合いそうだったのがそっちだったという話でしかなくて、急に命の儚さをどでかい派手な爆発で学ばされて道徳の時間でしたあそこだけ。どうして?でもその前のガツガツに間合いどうしてやりあってレースだ!!って派手に花火が打ち上がりその余韻の火花を追うカメラワークで場面転換するのすごい美しくてよかった。
レース前のご挨拶、「Dante, Enchanté」が韻も踏んでりゃ「初めまして」の挨拶をよりあなたに会えてうれしいという意味も含めて親密な感じで言う挨拶で煽り散らかしてて最高でしたね。ラベンダー色の車(服装も)は思ったより照明効果などによりそこまでラベンダーぽくはなくて(ペールトーンみが強かった)そこからのダメージは最小限だったんですが、まあワイスピ界の車は基本的に無事以外は爆発炎上して大破するので、爆発炎上して大破しました。はい。致命傷です。はい。やつらを公道に出すな。

まあでも最後にすべてを解決するのは肉体の物理的な強さと爆走する車のドアを走行中に開けて同じく爆走する車の空いているドアに飛び込める勇気と胆力なんですが。あまりにも生きていくハードルが高すぎるワイスピ界。何回か言っていますがあの世界で車の保険会社は何社か倒産しているか、「急に巻き込まれたカーチェイスなどについては補償しない」みたいな特約があるからな。やってられるかあんなの……でも道端のいい感じのカフェとか可哀想だから普通に保険が効いて欲しい。あと前作にもあったけど急な爆発を伴うカーチェイスから飼い犬をかばっているらしきモブのひとがおり、よかった。
俺はDolbyシネマに魂を売っているのでもう一回くらいDolbyで観たいし、IMAXのめちゃ巨大スクリーンでも観たい……と池袋の方をチラ見している。原語でちょいちょい状況をバーベキューに例えてるっぽい言い回しが何回かあって(ドムがわりとな頻度でみんなでバーベキューしてるシーンがあるから当てつけてるのかな)とも思いましたがなにせ情報の取得に忙しくてそれどころではなく……英語字幕見たいな…………。

最後にロック様も出てきたし、ジェイソン・ステイサムのサンドバッグになってた人が思ったよりおもしろい格好(状況はとてもかわいそう)だったのでにこやかでした。次…で……終わるんですか!?話が?!な感じでしたけど、そこかしこで言われているサイファーとレティのタッグ、スピンオフしてくれ〜!!!!!って思いました。
強い女と強い女が手を組んだらそれはもう最強なのよ。かわいいな〜、かわいかったな…前作もそうでしたけどけっこうやっぱりみんな肉弾戦もやるようになっていて、だからわりと前作あたりから車の運転以外でも解決されてることあったよな……とは思います。でも命のやり取りは最大級の感情同士のやりとりなので存分にやって欲しいです。
でもやってることは全部ファミリーのためという建前を取っ払ったら全部子供の教育には悪いからな。そこは前提条件として注釈をつけておけよ、とトレット家の教育に物申し他人になってしまう。リトルB、健やかに育ち、道交法を守れ。

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つらつら

2023年5月21日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:いいねボタンをつけてみたんですが、
どうなんだ………!?一応動作すればいいや〜みたいな気持ちで軽く設置したんですけどCSSとかいじりたいですねえ!数は管理画面外からは見えないようになっていますが、一応一日十回までの制限があります。Waveboxで絵文字連打するよりも気軽に押したい気分の時にどうぞ。そのうちお礼画像とかも整えたいです。

つらつら

映画感想:「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」
最新作が日本公開されているので事前予習で観ました。配信にもなっているので今更ですが一応全部ネタバレです。#映画感想

(承前同タイトル)「ICE BREAK」まではスピンオフも含めて観ていて、そのはちゃめちゃ景気良くすべてが壊れていく勢いが許されている世界観が大好きなんですが、今回もまあ〜〜〜景気良く全部ぶっ壊していきましたね!!!最高です。俺はフィクションならなんぼでも人が死んでいいし(推しも死ぬが……)景気良く爆発して欲しいタイプの最悪人間性所持者なのでだいたい全編にわたって手叩いて喜んでました。キャッキャキャッキャ。幼児の心が喜ぶ。

とはいえ人間の顔と名前が全然覚えられないのでさすがにドム(主人公)とロック様とステイサム氏(もはや役名がわからない)くらいはわかるんですが、レティがホルガ(DnD)と同じ人だって知らなくて再生し始めてすぐ「ホルガ姐さん!!!!!」って声に出ました。基本的に映画を作品単体で観て、俳優つながりで別作品も〜とかしないので全然その辺がピンときません。
ワイスピ世界は基本的にフィジカルと車の運転、正確にはドムがハンドルを握ればその後ろの車両部分がいくら炎上していても何とかなるのでドムがなにがしかの車両のハンドル握ったら勝ちです。そういう映画です。今回も勝ちました。
あと途中で死んだとされていたハンが復活したのめ〜〜〜〜〜〜〜っっちゃくちゃ嬉しくて、情報としてネタバレ踏んで知っていたんですけど「やった〜〜〜〜〜!!!!!!!」って声に出ましたね。珍しく死んだ推しが復活した例でした。最新作でもちゃんと予告で生きてたのでにこやかでした。これから死ぬかも知れん……恐怖が増してしまった………どうして…………………話が逸れました。

前作の悪役サイファーのことあんまり覚えていなかったんですけど、まあ毎回なんやかや世界を救っているのでなんやかや悪役にとっては「クッソ」みたいなことが起きているはずだ、っていう認識でも話がわかるのがいいですね、本当に。ちょっと人の顔と名前と役割を思い出すのが大変ですけど、その辺もうまく序盤の方で動きで説明してくれるので基本的にはどこから観ても大丈夫なの助かります。
今回、宇宙に行ってしまったので最新作であといけるところって言ったら地中(マントルとかコアとか)か深海かエベレストの頂上くらいしか残ってませんが大丈夫ですか?車の運転で何とかなりますか?という観客の疑問をスピードと車体の強靭さでぶっちぎってくれることを期待します。ラベンダー色の車が出てくるらしいのでちょっとあの…心を強くしていきます…………(このアカウントはラベンダーに傷を負っています)

クイーニー女史大好きだったので今回も出てきてくださってやった〜〜!!!!!です。ワイスピ、過去の登場キャラもさらっと出てきてさらっと仕事して退場していくので変なしっとりさとかテンポが悪くなるとかなくてその辺も好きな要素の一つです。あんな贅沢なカーディ・Bの使い方あるんだ……。よくまあこんなに毎回、だいたい同じ話を違うバリエーションでやってくれるなあ、という安心感も好き。あと大体爆発するので好き………俺の創作が毎回爆発しがちなの、ワイスピのせいでは??とんだ責任転嫁だよ。
物語が終盤になってくると基本的に爆発、カーチェイス、爆発と爆発、みたいな様相を呈してくるのでこのあたりからだんだん記憶が定かでなくなり、爆発を浴びるしかなく、手に汗握って心の中の幼児をきゃっきゃさせるターンに入ってくるので「景気いいな〜〜!!!!!」って大喜びしている以外の感想があんまりないのですよね。

テクノロジーの進歩と、技術はあくまでそれを使う側の人間の善性に左右されるということを一作目からずっとやっているので、倫理がなくても犯罪行為でも無免許運転でも、技術を正しく使う(ただし物理的に可能かどうかは定かではない)点において信頼性があります。まあ………車を横転させたりするのは全然正しい使い方じゃないんですけど………。
近いうちに最新作も劇場に観にいきたいところです!楽しみ〜!畳む

つらつら

2023年5月19日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

擬人化:空を飛ぶひと
メタい話しよう」の後に描いたメーカー擬人化(ロッキード・マーティン社)の漫画です。作中にライト兄弟についての本が出てきたの嬉しいね、と言う話。#GAS
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一次創作,擬人化

擬人化:「メタい話しよう」再録
2022年8月13日に発行した同人誌「メタい話しよう」の再録です。「トップガン マーヴェリック」を観てどうしようもなくなった人間の叫びみたいな本です。軽い気持ちで読みましょう。ページ番号の抜けは表紙・裏表紙裏の白紙部分の省略です。#GAS

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一次創作,擬人化

2023年5月10日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:いろいろやりました。
汗をかく時期に向けて白Tシャツを新しく買いました。夏に白しか着ないのは単純にめちゃくちゃ汗をかいて見苦しくなる(自分が目に入って嫌)のを避けるためです。もう食べ物やみ物をこぼすという自分のおっちょこちょいと天秤にかけても汗で変色する方が嫌。

それに合わせてではないんですが、昨日一日少しばかり体調が低迷していて寝転がっていたりする時間が多かったので自分の買い物をすませてきたりなんだりしました。最近少し考えていることがあって、本来はもっと早くからそうしておくべきだったお金の動かし方(つまり貯蓄をもっとまじめにやるということ)に取り組み始めていて、改めて生活のもろもろを見つめ直している時期です。とはいえ特に変わったことをしていないんだけれども……少しずつ何年も動かしていないものを捨てたりとかそういう小さなことです。
何か一つものを増やしたら何か一つものを減らしたいので、しばらく着ていない服などを回収に出したりなんだりしたいなあとぼんやり思います。

加えて、昨日は体調が低迷していてもできる作業としていままでPixivに掲載していた小説をばんばん自サイトに移動させました。Pixivはもともとイベント参加のお知らせ用として運用していたので、特に積極的に活用していたわけではないのですが(単にユーザー数が多いのでタグを複数つけるだけでもそれなりに宣伝効果はあった)、ここ最近のなんやかんやを見て一応のために作品を非公開にしておこうという試みです。
AIもなあ………Misskeyの方に寝起きの長文を投げたこともあるんですが、今のところ技術(絵を描くためのツール。Photoshopとかと一緒)としては賛成なんですが、大前提としての権利問題などがあまりにも杜撰なまま一方的に悪意のある使われ方をしている、そういった使い方をするユーザーにおもちゃにされているという印象が強いので立場上は反対になるんでしょうか。少なくとも自分の描いたり書いたりしたものが勝手に学習元にされるのは複雑な感情があります。たとえすべての創作物は過去の創作物からの組み合わせであったとしても。

2023年5月9日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

創作:写真から描き起こす。
2016年5月1日(Pixiv投稿日)のメモが出てきたので。1〜4枚目が説明で5枚目は作例です。古写真加工は幕末古写真ジェネレーターというツールを利用しています。#自分メモ

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一次創作

二次創作:君がくれた朝焼け
2021年12月26日初出(Pixiv)皆守甲太郎のこと全然わかんないまま17年くらい経ちます。そう言う話です。ネタバレを含みます。#九龍妖魔學園紀

無駄に三回、シャープペンシルの尻をノックしてようやく、判別のつかなかった感情の枠組みを怒りだったのかなと推定することにした。
死ぬような思いをして結局は手柄を横取りされたような任務でも、その感情は一切排したレポートというものを書かなければならなくて、素晴らしいことに俺はそれを事前に一度手書きで組み立てるという作業をするのだ。先輩方には鼻で笑われてるけども。
紙面から排した感情は、排された感情は、その真っ白さに跳ね返されてもやもやと胸の辺りを圧迫してくる。そのもやもやから目を背けたくて始めた作業は、学生の部屋に似合いの簡素な机の上にも持て余されて、ついにこの根城いっぱいにうっすらと沈殿してしまった。
すでに決まった結果はあまりにも大きくて頑丈で、ちょっとやそっとでは絶対に、たとえどんな準備をしていたとしても「そう」なるしかなかったようにまぶたの裏にこびりついていて、いつなんどきそれを振り返ろうが、いま抱いている感情を明確に思い出せるんだろうという確信ですらある。己を信じる第一歩はすべての己を疑うことで、一夜明けて八時間寝たそうとう冴えているはずの頭で何度「そうではなくない?」と問いかけたところで出てくる答えが一緒なのだからたまったものではない。
否定を寄越す相手はいない。そんな問答がどれだけ頭の中で余計なことを考えさせるか、だとしたらもっとあらゆるものを削ぎ落としておけば良かったと後悔が喉を迫り上がってくる。
机に向かって答えが出ないなら、とこれまた簡素なベッドに寝転んでみても、なんやかんやと人からもらったものたちが徐々に隙間を埋めて行った結果、書き物をするときにどうしてもどけたいものの、調理器具を床に置くのも気が引けてベッドの足元に鎮座することになる、その銀色の寸胴鍋がぎらぎらと視界の隅を焼く。
ぐぅ、ともうぅ、ともつかない唸りが喉だけ震わせて、結局気づけば食いしばっている歯の隙間から漏れ出ていく。
「さいしょっから、」
最初から、傷つけてばかりいたのは、たぶん、俺の方なんだろう。
隣に居づらくさせていたのは。それでも馬鹿みたいに些細なことで笑わせて、くだらないことで盛り上がって、「そう」させていたのは。
最後にそっちを、選ぶくらいには。
「──……あっべ、歯ぎしりしすぎて奥歯欠けたやつって経費でなんとかなるか?これ……?」
いっそ根本から抜けてしまえば戦闘中のどうとやらでごまかしも利くだろうに、大規模な戦闘が終わってひと段落ついた日中に、そういえば歯が欠けていましたなんてどう考えても追求される。
「いやいやいや新人だし……多めに見ろ……はぁ?……………」
てのひらの上ですら見失いそうな小さな骨の欠片は不釣り合いなほどに白くて、骨なんだよなという属性を主張してくる。どうした、それを見せるの、俺でいいのか。
「おれになにみせたかったの──?」
遠く、ためらいがちなスリッパのやる気のない足音がする。
しばらく待てばこの部屋の前でためらいがちに立ち止まって、きっとその長い指の関節が控えめにドアをノックする。きっと俺はどうぞと言うし、開いてるよって言うかもしれない。
右手に欠けた歯を握りしめて、ゆっくりと体を起こす。今になって欠けた奥歯のあたりに遡った血流を感じる。どうやら緊張しているらしい。
引きずるような足音がドアの前で止まって、静かな部屋にノックの音が響く──俺はいつまでも動けないでいる。畳む

二次創作

擬人化:君と箱庭の空
2017年11月12日初出(Pixiv)郵船さんと横船さんの関係性が萌える、というだけの話です。「擬人化四季報」に寄稿したので、ちょっと火がつきました。本文後に登場人物などの説明。#GAS

触れた手のひらに伝わるあまりにも直接的な骨の感触に、横船は思わず眉が寄る。
「おっまえ……」
「何だ、離せ」
返ってくるのは予想通りの声質。慣れたものだ、怒っているわけではないとわかるが、あと一歩のところでもある。
元はと言えば横浜市民の憩い場になって久しい娘(男)からの深刻そうな相談だった。
「郵船のお父様がね、また最近ちょっとお痩せになったように見えるの」
「お痩せにってあいつもう減るとこないじゃろ」
「ないと思いますでしょ?どうもあったらしいんですのよ……氷川の気のせいと思いたいですけど」
気のせいじゃないぞ氷川、と心の中で思念だけ飛ばしておく。受信ができたかはわからないが、おそらく何かしら飛んで行ったことだろう。
「お前なー、もうあばらゴリッゴリじゃねえか、ちゃんと食べてんのか?」
「食べ」
「おいそこで止めんな、顔を!逸らすな!」
長年の付き合いは三桁を越えた、お互いの扱いも慣れたものだ。
元々彼女は細かった。初めて出会った時から、華奢という形容は似合わないけれど、造船所として成り立った己と比べなくても細かった。どうやってその骨とうっすらした肉と皮だけであんなにも色々なものを踏みしめて乗り越えてこられたのかと思う。
その肉と骨の内に秘めるものはあまりにも大きくて、強い。それは十分すぎるほどわかっているけれど。
「成田の方でなんぞやいやいとやっとるんじゃろ、ちゃんと寝てんのか」
「なんで知ってる」
「お前なー、俺はもう天下の三菱じゃぞ。いやでも耳に入ってくるんじゃ」
これは少し嘘があって、本当は自分から情報収集をしているのだけれど、ばれたところであまり結果に変わりはない。慣れたものだ。
三菱、と己の所属を指すときに彼女が少し揺らぐのも。お互い、慣れてはないらしい。
約束もなしに乗り込んだ本社で、部屋に入るなり怪訝な顔のままその場に立たせてあばらに触れた。こっちの方が慣れてしまってはいけない気がする。
「ええーお前ほんと…どこにこれ以上減るもんがあるんじゃい……おかしいじゃろ……物理的に…」
「物理」
「質量保存の法則とかそのあたりが乱れとるぞ絶対」
「燃焼するのか、あたしは」
自然ため息は大げさになり、あと一歩の限界値が残り半歩になる。
そも人間ではないけれど、人間を基盤に成り立っている概念だ。寝食が必要な理由も始まりからわかっているはずなのに、何かが理解しているはずなのに、彼女の中の別の何かはそれをねじ伏せて摂取するエネルギーをすべて己の行動に費やしてしまう。
休むことをしないのではないだろう。必要な分はきっちりと計画されているはずだ。なまじ長生きしているだけあって、己の限界を見極めるのは早く的確であるはずだ。慣れたものだ。
見上げた顔は微塵も疲れを感じさせない。ただ、眉間のあたりに穏やかではない空気がある。理由はうっすら知っている。
本当のところは干渉できない。本当のこころは干渉できない。
「なんで、なんで俺お前にこんな頭悩ませてるんじゃろな…」
「悩まなくていいと言ってるだろう」
「おー、うるせーうるせー。そういうのは昼飯食ってから言えー」
時刻は正午過ぎ。どうせ朝に何か口にしただけで今の今まで座りっぱなしだ、大した消費もしてないと言い聞かせてろくなものも口にしていないだろう。机上の乾いたカップの中に、完全に乾いたコーヒーの色が物語る。このひとなにもたべてないです。
「美人薄命っていうじゃろ良い加減にしろ」
「言う相手を間違えてないか」
「美人じゃろが」
いつもならここで残りの半歩、歩み切ってしまっている。文字通り首根っこ掴まれて放り出されるのがオチだ。
ただし、時刻は正午過ぎ。燃料切れの体内もまた事実。迫力のある顔と、深いため息で事は済む。慣れたものだ。
「ここで立ち話してても始まらん、お前もう何でも良いから食べたいもの言え」
長く深い沈黙は想定内、少し視線が泳いだ後の回答は想定外だった。
「……シュークリーム」
「しゅうくりいむ」
「chou à la crème」
「憎いほどネイティブ」
場所は東京丸の内。およそ何でも、あるものはある。なにせ起源は岩崎弥太郎、呼ぶ人が呼ぶ三菱ヶ原、己も相手もそこに還ると言っても過言ではない。
「うん、まあ…俺この辺詳しくねえけど…なんかあるじゃろ、店」
「あるな。受付で聞いてこい」
「おう、そうするわ。ちょっと待っとけ」
簡易ながら十分な存在感の応接ソファに座らせて、これまたノックの音が果たして通るのか不安になるような扉を抜ける。
気が変わらない内にと逸る足が転ばないようにだけ気を配る。
場所は東京丸の内、時刻はちょうど正午過ぎ、太陽は午後の眼差し、空腹が味方する。
手のひらには硬い骨の感触。皮一枚の下に通う血潮の鳴動まで感じられそうだった、大げさでなく。
氷川に聞いた、と素直に言っても良かったが、まだそれは最後の手段として取っておく。心を新たに前を向き、決意を新たに駆け出した。


ひとり、嵐のような来訪が去った静けさに取り残されている。
確かに空腹ではあったので、そろそろ切り上げてしまおうと思っていたところだった。
脇腹の少し上、ちょうどあばらの終わりのあたり、どこから見てもくびれなんてものはないが、体格の割に大きな手のひらに不満だったらしい。
「……わかってないな」
誰にも聞かれやしないから、と珍しく自室なりの油断で声に出す。
成田のごたごたは、きっともうすぐ片が付く。確かに少し切り詰めていたが、そこまで重労働とは思っていなかったのも事実だ。
「…わかってないぞ、ばか」
口にするのは何でも良かった。できれば軽いものだと良かった。それでも何だか真剣に見つめる視線で思い至った。
「横浜からだろうが、あいつめ」
望まれて、うまれた。言葉は同じでも望まれ方がまるで反対だ。
片や共倒れを危惧されて、双方から半分ずつ。片や京浜地区一帯から市民から、本当に必要とされて。
「一緒なら、」
一緒なら、きっとなんでもできると思った。
全くそうは、ならなかったが。
本当は、隣に座って、言葉もなくて、静かで良いのだ、こんな午後は。
時刻はちょうど正午過ぎ、太陽は午後の眼差し、空腹は静かに訴えてくる。
切れてしまえば回らない集中と思考回路。単純なものだと己でも思う。
疲れた目頭をもみほぐす指も、彼にしてみれば細すぎるのだろうか。人間と同じように影響しない時間の中で、多少は変化があったと思う。
最低限と整えている爪には一本の筋もなく滑らかで、短く端正に揃えられた丸みが気に入ってはいる。少しだけ節が目立つが、無表情ではないと思う。
気に入られようとあえて思った事はない。嫌われてると思っているならそのままでいい。
気づかないでくれ、と思う。これ以上重荷になってたまるかと思う。決別の仕方が仕方だけに、そもそも彼は己に対して引け目があるのはわかっている。嫌という程。
心配をかけるつもりはなかった。動向を知られる気もなかった。愛しい娘の観察眼を、少し侮ってはいのかもしれない。
口にするのは何でも良かった。味の有無すらどうでもよかった。ただ隣に座ってうるさくしながら何でもない話ばかりしたかった。できれば明るい話を。本当は、
「お前と一緒ならなんでも良いんだ」
溢れた言葉はおそらく誰も聞き取れない振動で目の前の空気を震わせただけだった。

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娘(男):氷川丸さんのこと。女装おじいちゃんなので。また、氷川丸さんは郵船さんのことも横船さんのことも「お父様」と呼びます。郵船さんが自分のところの船には全部自分を「父」と呼ばせているだけです。

成田でやいやい:NCA設立のあたりです。時系列をお察しください。昭和50年代丸の内にはたしてシュークリームがあるのか。きっと洋菓子店はあったと信じたいです。余計な時系列を作らなければ良かったのですが、郵船さんがあの規模になってから痩せるようなことがあるのはきっとこのときくらいだと思います。

シュークリーム:幕末の横浜外国人居留区ですでに西洋菓子店が営まれており、一説にはメニューにシュークリームはなかったそうですが、当時すでに本国ではメジャーなお菓子であったのでおそらくそこが日本に入ってきた最初では、ということです。
なお、そこに日本人菓子職人が修行に行きその後に日本で初めてシュークリームを発売する菓子店を開店したとか。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:いちめん、ゆきすぎる
2014年2月8日初出(Pixiv)本庁さんがのろけてるだけです。ひさなさんの擬人化宗谷ちゃんをお借りしています。#GAS

一面の白色というには濁りすぎた、それでも全面的な無彩色。
右から左へ、目線と並行に飛んでゆく霞のような白色。
「やめた方がいいんじゃないですかね」
左からの忠告。
「電車、止まってるそうですよ」
二度目は適切な報告を含んだ指摘。
「ていうか、やめろ」
三度目は容赦のない警告を一段飛ばした、不穏。
ガラス一枚、人の気配に従順な扉の向こうは無彩色。時折すぎる傘の色合い、マフラーのたなびくさまにはっとする。
「ちなみに横須賀は完全に孤立しました。さっき」
「…行かないよ、そこは」
よりにもよってこんな天気に、まだ距離を測りかねているところになんて。
それでもこの日の約束のためにいろいろと明言できない部分で暗躍を重ねて、息つく暇をひねり出したのだ。おいそれと諦めのつくものではない。
自然に対してあらがうことが、なにより無駄だと知っているけれど、それならそれで渡り合うくらいはできるのだ。
「京太郎は、帰りどうするの」
場所は東京、お台場。
諸事情でお世話になっている放送局の球体が、霞んだ幕の向こうにあるのだろう。
隣から親切な停船命令を静かに発する彼は滑らかに指先で眼鏡の位置を直した。
「こんな天気ならしゃあねぇです。直行します」
軽くため息、つくづく真面目な彼なので本来であれば一足飛びに動ける距離を、きっと満員電車や疲れた乗客にまぎれようとはしたのだろう、ぎりぎりまで。
そんな中を、待っていてくれるだろうか。
そんな中を、連れ立って歩いてくれるだろうか。
寒さには慣れているだろう、なにせ南の果てまで六度行った。
冷たいのには慣れているだろう、なにせ北の大地で氷を割って走っていた。
だからといってそれらが全て堪えないかと、それらの全てを気にも留めないということではない。
「だから素直にやめとけって言うんですよ」
でもね、と咄嗟に言い訳の前段階が口を出る。出そうになるのを、のどの奥で押しとどめたのは及第点だろう。
素直になるなら、楽しみなのだ。
眠れないほど、ではないけれど。少し、行動の些細な端々に落ち着きをなくすくらいには。
「…かまくら、とか」
「ちょっと足りねえんじゃないですかね」
地名でないかは確認されない。
雪玉を投げあうには人数が足りない。かといって雪玉を重ねるだけのだるま造りはあまりに体を動かさない。
「最後にいいますけど、天気予報じゃこのあと大荒れだから小さいお子さんとのお出かけは特に控えろって」
「一応、大きいです」
「お子さん部分を否定しろよ」
想いも寄らなかった部分へのつっこみに少し驚いた顔をしていると、じろりと一瞥を食らう。
そのあとのため息は、自分自身への諦めと納得を呑みこんだ反動だろうか。
「寒くなったらすぐに屋内に入ること。できれば暖かいものを摂ること。いざとなればまつなみに言ってください、甘酒くらいならすぐ出ます」
「まつなみは…どこへ行くんだろうね。方向性」
「迎賓艇ですから。そしてあなたが方向性について言うな」
全ては一存、ではあるのだけれど。個として確立した先のところまでは、影響できない。
無力だな、と思うことはなくなった。力が足りないな、とは常日頃から思っている。
己の手のひらの小ささを思い知ったいくつかの出来事と、それに付随する感情は長い時間に晒されていつか口角を上げられる日が来るだろうか。
「…あのね、わかってないようだからあえて言いますけど」
「うん、なに?」
呆れたような、諦めたような、それでいて少しだけ妬いているような、加えて少しの、嬉しそうな、送り出す、それに似た、
「そんな顔してる暇があるなら、さっさと迎えにいけってんですよ」
暖房が効きすぎてもない適温の屋内、寒すぎて色づくでもない頬の赤みを自覚しろというのが難しい話だ。
けっ、とひときわ大きく呆れられて雪降る中に追い出された。
「待たせてんでしょ、せいぜい走ったらいいんです」
吹雪の中に傘はなし、風はあいにくの向かい風。まともの語源は順風だったかといまさらそんなことを考える。
この雪を走り抜けて、あるいは走れずに歩くはめになったとして、待たせた人に合う頃に頬の赤みは意味を変えているだろうか。
例えば、同じようにその頬がうっすらでいい、色づいていたら、その意味するところが同じであるなら、もうそれ以上は望まない。
きっと手袋の中の指先も手のひらも着く頃には冷えきってしまうだろうけれど、冷えただろう頬に触れる理由が一つある。ひとつあるなら、十分だ。
息を吸う、走り出すための準備にしては温度差でむせそうになるけれど、言われた通り待たせているのだ。
純白というには濁りすぎたそれでも無彩色、そのオレンジは燦然と輝かずとも確かに目につく色をしている。目につく理由は、それだけではないにせよ。
吐いた息は真っ白に煙ってあっという間に流された。
ああどうかこの鼓動の上ずりが、違う意味になりますように。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:なつの洋上、きらめく
2012年8月26日初出(Pixiv)夏のつがるさんと、ユーカラさんの話。いちゃこらしてます。#GAS

北国とはいえど夏場になればそれなりに暑いものは暑い。
そういうとどこかで勝手に我慢大会をはじめて、参加表明もしていないのに周囲はそれに加わるべきだと信じて疑っていないような南方の住人がわめきだしたりするのだけれど、頑に。暑いものは暑い。
陸上ならばまだ、日差しを遮るものがあるだろう。反転、洋上ではまるでなにもない。どこまでも続く水平線、平時であればロマンにあふれたこの決まり文句も今だけはただただ地獄の入り口にも等しい。
上空へ上がってしまえば高度と温度は反比例してずいぶん凍える思いもするから、己はましな方だという自覚はある。
だがその基地となる船はと言えば毎回見える景色はほぼ同じ、洋上に一点、目の覚めるような白色を横たえて一切の日影を持たない。晴天の陽光を跳ね返し、挑むように浮かぶ姿に心底惚れているのは自分だけれど、それが気の毒にならないかといえばそうではない。暑いものは、暑いのだ。
「あっ……つい、って、いったら一回いくらだっけ?」
「百円か五十円でさっき揉めてたな」
「やー、もうこの暑いのにそんなことに体力使うのもったいないわよ、絶対」
散々主張した上であっさり翻すが、外気温に関わらず船内の空調は整っているのだから格納庫なんかよりもっと涼しい場所はある。さっさと涼めばいいだろうに、何故だかいつも文句をいいながらここへ来る。その理由が自分で思っているものと同じであるか確かめたことはない、といったらどこかの誰かはあきれ顔でなんて臆病だとため息をつくだろう。
「ねえ、涼しくなるような話して」
「……昔、海面捜索しててだんだん暗くなってきたんだけどな、気づいたら現在地がわかんなくなって、燃料も少ない上にそこがたまたま起伏の多い地形だったからどこに不時着していいかもわかんなくてな、そんで」
「やめて、わかった冷えた。ありがとう。あと君自身のことでなくてよかった」
「固定翼が着陸しようとしたら滑走路の灯火じゃなくて格納庫の灯火であわや、だった話は?」
「いい、いらない。あー、機体がひんやりしてて気持ちいいわ」
機長席から軽やかに降りて、その柔らかい手のひらを押し付ける。このまま抱き枕にならないかな、とささやかな希望を聞いたのはなかったことにする。
「君は、さ」
一瞬よこしまなことを考えたのが気配でも伝わったかと身構える。
「君は、どれくらいあたしのこと好きなのかな」
身構えたまま、動けなくなった。
そんなこと考えたこともなかった、からではなく、搭載機であると定められた瞬間からもう、どうにも焦がれてやまないから。
ただ帰る場所はひたすらにここで、彼女で、その一点で、送られるその言葉も迎えられるその言葉も、ただ彼女からのものであるから自分の世界に意味を持つのだと、思っていたから。
尺度は、用意もなかった。
「ど、れくらいって…言われてもな」
言葉に詰まる。自分の知るありとあらゆる単位では、その輪郭にすらふさわしくない。
かつてないほど考えて、ふと、明確な数字はあるだろうけれどその正解を知らないものがひとつ。
「あー……海の体積くらい」
少しだけ語尾を上げて疑問のようにしたのはせいいっぱいの照れ隠しであることが伝わらなければ良いと思う。
ふうん、とそれを受け取ってからの真面目な顔で返る言葉をひたすらに待つ。
「1.37メガ立方メートルか」
「っ、おい、人のせいいっぱいの回答をお前は……!」
さらりと明確に示された数字は予想もつかなかったけれど、自分なりにうまいことを言ったつもりでもあっただけに反動は大きい。
「はは、冗談だよ」
「じゃあそういうお前はどうなんだよ」
売り言葉に買い言葉、というには自分に都合が良すぎると思いながら反撃の意味を込めて今まで秘めていた気持ちを一つ、口から放つ。言葉という輪郭を持って放たれたそれは、どうやらすんなり届いたらしい。
ほんの少し予想外だったように目を開いて、吞み込んで理解するまでの二秒、細められた瞳はまっすぐに貫いた。
「言わなきゃ、わからないかな?」
もうぐうの音も出ない。かなわないのだ、どうあっても。
ないものだと思っていたけれど、確かに胸の辺りが温度を持って跳ねる、喜びにかそれとも別のなにかにかはわからないけれど、心というものがあるのだとしたらきっとそれはこの温かで、熱いくらいの温度で喉を灼くのだろう。
返す言葉は、見つからない。無言の敗北、惚れた弱み。
「君のそういうところ、好きだよ」
ふわりと首を少し傾げて、ああたぶん、わかってやっている。
その満面に浮かべた笑みが、ふいになにかを察して緊張感をはらむまで、一瞬だったのがまだ救いだ。
「さあ、お仕事だ」
身の引き締まる、単調な高音。続く状況の断片、にわかに騒がしくなる船内のざわめきを遠くに聞きながら浮かべる笑みの種類は違う。仕事とあれば切り替えは簡単なはずなのに、今のこの瞬間だけは名残惜しい。
「あのなあ、つがる」
ため息まじりに名前を呼ぶ。そのあとに続く言葉は特にない。呼んだ名前の残す空気がいつもよりも耳につく。
矢継ぎ早に状況が明確になって、どうやら自分も出番のようだ。
「言い分は帰ってから聞くよ、ほら、いってらっしゃい」
甲板に引き出されて着々と飛ぶ準備の進む中で自分の背を押す当たり前の単語が意味を持つ。その対になる言葉を聞くために、やるべきことは目の前に。

飛び上がった眼下に一点、やはり日影を一つも持たない目もくらむような白色。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:あなたのとなりを、
2012年4月27日初出(Pixiv)つらつら書いていたら羊蹄丸さんの片思いになりました。携帯電話というのは便利な半面倒にもうすっぺらなフィルタが一枚かかってしまう短所があるように思います、という話。#GAS

たとえばあなたへの言葉を明確な輪郭に乗せたとして、それはたぶん感謝のかたちしているのだろうと思う。そうしてそれを簡単に伝える方法はあるのに、安易にその形式に乗せてあなたへ飛ばしてしまいたいとは思わない。

静かにたたずむようになってからしばらく、内側に抱えた容量と同じだけの虚無と空間を持て余すように過ごした日々にしっかりと残ってしまったとなりのアラートオレンジ。
小さく起きた岸壁への反動、そんな波にもよく揺れるどことなく不安定な丸みの際立つその流線。ずっととまって動かずにいるせいで、すっかり色のあせてしまった左側。
外からも内からも波と気候と生まれてからの歳月に蝕まれて、もはや人の立ち入ることの出来なくなったところすら抱えて、ひっそりと静かに賑わうその眩しいくらいの太陽の色。現役時代に見慣れていた一面白色横殴りの吹雪でも、きっと容易く見つけられる、そうして実際それを目的に塗られたその色。時代と人の願いを背負った希望の色と言ってしまったらそれは過言がすぎるだろうか。

低く掠れた、何人の名前を呼んだだろうか想像もできないゆっくりと震えるその声で呼ばれる名前が好きだった。遠い潮騒と暗い雨音にかすんでしまうその声が耳から入って抜けるとき、それに対して敬意でもってなんですかと問い返す己が誇らしくすらあった時もある。思い出は美化されて、想像は都合がいい。

決して同じ方向としての矢印ではない返される言葉と、あなたが気がつかないならそれでとおこがましく放った己の言葉と、その応酬を続けたいがためにこの無機質な塊が映し出す単調な連打の継続で綴る文字を駆使するのはなんだかもったいない気がする。だからといってそんな無機質の塊を通した声がその裏側の思いを問答無用に裏濾ししてしまうのも気に食わない。己の気持ちが隠れることではなく、あなたの気持ちを読み取れないことが。

覚えてしまったあなたの癖も、繰り返される同じ話も、聞くたび異国の話のようで事実その大半ははるか南の極地のことであったのだけれど、なぞるごとに一筋ずつほどけていく氷河にも似てあなたに近づいた錯覚すら感じたそのきらめく時間の数々。ずいぶんと感傷的なのは笑ってください、と誰に向けるでもなく口角を上げたところでそれに対する相づちも苦笑いも返ってはこないのだけれど。

いまここで、あなたの名前を呼んでもいいですか。
盛大に、己に幕を下ろすその前に。

恋、というにはあまりに単調で無頓着だった。愛、というには少しばかり執着がすぎた。
それは所詮、それらの感情への理想論から著しく外れていたというだけのことだけれど、それでも確かにあなたに抱いた感情は尊いものであったと思う。あれほど恐れた何の変化もなくなってしまう日々に、気がつかないほど少しずつ薄れていつかそのままいなくなってしまうのではないかと日々をおびえたはずなのに、今となってはもう、それが一番正しかったのだとすら、おこがましいほど取りすがる。

夜、世界は眩しくなりすぎた。それでも、海というものは真っ直ぐに暗い。
いつか聞いた明けない夜と暮れない夜の話がよぎる。そんなのはまっぴらだと、想像だけで笑った己も、その隣も。
誰の許しもいらないはずなのに、誰かに肯定して欲しくて泣きそうなほどの星空からつま先へ視線を投げる。


いまここで、あなたのなまえをよんでもいいですか。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:くもりぞら、アラート、
2011年12月15日初出(Pixiv)総合訓練が天候不良で中止になったのでそうやさんが遊びにきました。そんな話。#GAS

およそ海を知る身にとって低気圧というものは嬉しいものではありえない。悪天候で雌雄が決する戦いなどいまの世界には、少なくとも己のいた海峡間では起こりえなかった。つまりこの世は平和なのだ。
近く、しかしもはや自力ですら辿り着けない湾内で一年に一度の盛大な催しがあるとかで、隣の桟橋は空っぽだ。
波が不穏にうねる。低い圧力にぎしり、肩が軋む。腹にぶつかる冷たい海水が生ぬるい波を生んで、不規則に吹き下ろす風がばたばたと煩わしい。黄みがかった灰色の空が降ろした幕で遮られた陽光は景色を見事に平均化した。
一輪、切り裂いたような白色。
「こんにちは」
穏やかに響く柔らかい低音。いまだ現役の、赴任地は親しんだ北国の果てでその白色を見慣れてはいてもけして親しくはないその影と気配。
改造の末に砕氷船として生きた隣のアラートオレンジ、その後継として造られた、この国二番目の砕氷船。
青い海に映えるように威厳をもって制する白色、穏やかに上がる口角、なにを取っても似つかない外見はしかし不思議と既視感になじむ。
「こん、にちは…あれ、えーっと…東京湾でなんとかじゃなかったんですか」
とっさに名前が出てこなくて、少しの驚きでごまかせる範囲を探るように名称をぼかす。
「観閲式はこの天気だから中止になってしまって…時間が空いたものだから」
「あ、そうなんですか。わざわざどうも」
「ええ、突然でご迷惑かとも思ったんですが」
距離を測りかねているわけではない。ただ、立ち位置がやや不明なのだ。
直接的な関係はなくて、間接的というにもそのつながりは薄い。ただ単に、隣に並ぶ船の、後継というだけ。親だ子だ孫だ血縁だ、そういうものが存在し得ない関係だからなおのこと作る顔に困ってしまう。もちろんそこには主な目的が自分との会話にないだろうという予測も含まれているからこそ。
「先代は?」
「ああ、この天気なんで朝からちょっと」
調子が悪いみたいですと素直に申告しそうになってから慌てて気遣いのようなものが顔出して、おかげでやけに含みのある言い方が残る。ただ動くこともなく係留されているだけの状態は、思ったよりも天候に左右されやすい。気圧が低ければ節々は軋み、脆く弱くなった鋼鉄は悲しげに引き攣れる、毎回のことではないけれど時折、目を開けてすらいたくない時というのがどうしてもやってきてしまうのだ。
その微妙な心境を長らく前線で働く立場にどうやって伝えたものかと逡巡してみても、予想に反して相手はそうですかなんて納得している。
「…ご迷惑じゃありませんか」
「何がです?」
「いえ。——いつも、みていてくださるんですか」
その「みている」に含まれる意味がどちらなのかわからなくていまいち漢字に変換することが出来ないけれど、結局どちらの意味でもたしかにいつも、それこそいつも、みていると言えばみている。
「そう、ですね。ま、この距離なので」
「そう、ですよね」
ふふ、とこぼれるその笑い方を、似ていると言ったら気を悪くするだろうか。遠く、想像のつかないという意味では同じ距離を走った経歴で、生粋ではなくとも砕氷船として生きていれば所作の端々も自ずと似通うものなのだろう。
風が吹く、先ほどよりすこし強い。日も暮れて空気も心なし冷えている。程度の差はあれ、自分だってここでぼんやり立っているけれど、指先の細かい動作が今は不安だ。
来客には悪いけれど早々に引っ込んでしまおうと肩にかけた外套の襟を正す。
「これから宗谷さんの様子見に行って、それから俺も中に入りますけど、どうします?一緒に行きます?」
「うーん…先代、寝ているだろうから起こしてしまうと悪いし、今回は遠慮します」
「わかりました。起きてたら追いかけないように言っておきます」
その意味を理解したのか小さく吹き出して、頼みましたとほほを緩めた。
気が向けばどうしようもなく執着するくせにまったくあっさりと境界線ではねのける、その多面体の原因がどこにあるのか知っているからなのか、それとも自分の知らないなにかを語られたことがあるのか、くすんだ陽光に挑むような潔癖の白色をまとってこんな日にはぜひとも拝みたい夕日にも似たアラートオレンジを見つめる視線は少し、安直さに欠けた。

一番居心地が良い、と自負するだけあってなかなか座り心地の良い士官食堂のソファの上でまるでおびえるように小さく寝転がる姿を見ながら、その視線に含まれた何かを自分は詮索するべきかどうかを少し迷った。畳む

一次創作,擬人化

擬人化:おたがい夏の身の上ですので。
2011年8月31日初出(Pixiv)宗谷さんと羊蹄丸さんの不穏な会話。時事ネタに愛だけ込めると、こうなります。#GAS

たとえば、どこかで何かがどうにか違っていたところでこの人にかなっただろうか、と隣のアラートオレンジが小さく風に居心地をただすのをぼんやり見ていた。
また台風だって、と解釈によっては投げやりにすら聞こえるつぶやきを上手に自分は受け損なう。
「荒れますか、ね」
「どうだろうね…真っ直ぐあがってきているけれど、うまいこといなくなってくれるといいねえ」
それが、その一種の投げやりがけしてあきらめでも本当の投げやりでも他人事でも無関心によるものでもないと知っているのに、今の今まで茫洋を気取っていたつもりで余裕なんてこれっぽっちもなかった自分は見事に裏目に食らいつく。
まるで自分のことのようだと精一杯の皮肉と嫌味を、ゆっくりと波の立つ表面にこぼす。
やたらと気まずい、だろう。それを狙っているのだから結果だけは順風満帆、そうしてあくまで、結果だけが。
風が湿気を帯びて来た。
「あんまり、そういう言い方は好きじゃないかな」
控えめに、遠回しに、一足飛びに、切り裂く鋭さはないものの、砕く強さは変わらずに、いつもたたえる笑みも潜めて、追い打ちのようにぽつりと跳ねる。
「あなたになにがわかるんですか」
まるで三文芝居の打ち返し。普段はどうして生きる時代の違いからなのか歩んだ道の違いからなのか、すれ違い噛み合わずお互い困惑することはあっても衝突なんて滅多にないから、(ああでもこの人が何を言おうと自分はつぶあん派なんだけれど)、さてこのステレオタイプな書き割りの打ち返しをどうやって呑みこんでくれるのか一瞬だけ楽しみであったことはいつまでも秘密にしていようと思う。
微笑でごまかす無表情が少しだけ、裏側に何かをにじませた。
「それは、でも、」
空気はにわかに重苦しい。低く掠れる応答の声。
つ、と逸らして一瞬のちに、すい、と見据える視線の動きの深層で一体何が動いたか、多分自分にはわからない。
「それはでも羊蹄丸さんがきっと僕の事をなんにもわからないのと同じだよ」
これが芝居なら観客は席を立つ。総立ちで手を叩き、感動にむせび泣き、舞台の上の役者二人を讃えることなく、無言のままで席を立つ。
ああずいぶんと、下手を打った。
「そりゃ、そうですね」
「そうだよ」
「そんなものですかね」
「そうかもしれないね」
「こういう言い回し、嫌いじゃないんですか」
軽口の最中に本音を滑り込ませるのは反則だ、と誰からも教わってはいないのでここまで来たらもう一芝居、下手を打ってもいいだろう。
「好きじゃない、という程度かな」
装う無表情、仕切り直しの苦笑い。ふふ、と押し出す軽やかな声。まるでいつもの、時刻表。

喝采、あなたに。
いま俺はとても愉快です。畳む

一次創作,擬人化