散る散る満ちる。

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2023年4月の投稿39件]

2023年4月30日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:アフタヌーンティークルーズ
ロイヤルウイング通常営業最終日ということで(本当はご一緒したフォロワーさんとの都合もある)アフタヌーンティークルーズに行ってきました。結論、曇りだったけどめちゃくちゃよかった!の話です。

わかっていたけれど「船に乗っていると自分の乗っている船が見えない」んですよね、これはごく当たり前の話をしていますが船に熱をあげている人間は改めてそれを船内で「あっ……………」というタイプなのでこの辺は気にしなくて良いです。天気は曇りで、最終的に少し雨もパラついたんですが全体的には湿度が高いけど寒すぎも暑すぎもない感じでよい気候でした。
アフタヌーンティーなので自分で選択肢の中から選ぶドリンク、基本的に飲めるフリードリンク(複数種類)があって水分いっぱいでした。これは調子に乗って飲むとお手洗いが厳しいぞ………!船内、もちろんお手洗いもあるのですが、一般的な商業施設とは数や大きさも異なるのでそのあたりはご自分の肉体と相談していただければ良いと思います。

アフタヌーンティーといえばあの三段の食器に並んだ軽食たちなんですが、下段に揚げ物(胡麻団子とかなにか美味しいものを包んで揚げたもの、春巻き)真ん中に美味しいお肉(たぶん一つは鴨肉)に美味しいソースがかかったものと帆立(単体)、上段にマンゴープリンと杏仁豆腐(容器がハイヒールみたいだった)と船の形をしているチョコレートムースケーキ(下がベリーを乗せてあるパイ生地なの天才)でした。あとは小さいセイロに焼売、エビまん(名前を忘れました。えびおいしい)、翡翠饅(生地にほうれん草が練り込んである)が一つずつ並んでいて「ご、豪華!」という様相。つよい。孫(人間)においしいものをいっぱい食べさせるぞ、という気概を感じる。

量が多くてゆっくり食べていたらデッキに出る時間がそんなになくなってしまって、終盤にデッキに上がったら後ろから「ぶこう」(PL10:横浜海上保安部所属)が入港してきてて「どえわ〜〜〜!!!!」「嘘でしょ」「まって」を連呼して大騒ぎしました。反省。
下船してからは大さん橋の上から港を眺めたり、次の便に出向していくロイヤルウイングを見つめたりいろいろして楽しかったです。
昨日までの怒涛の仕事の疲れのせいであらゆる文章がふわふわしています。

つらつら

2023年4月29日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:タイトルもうわからん
相変わらずです。だからタイトルってなんやねん、はあらゆるタイトルが必要そうな何かを作るときに毎回思います。
そしてとても眠い。

つらつら

2023年4月28日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:なんだかなんだか
今日も絶賛忘れそうだったのでとりあえずMisskey.designのアカウント載せておきます。裏参道(https://misskey.design/@ura_310)です。

Misskeyてそもそもなんやねん、の説明はこの世の他の説明がわかりやすいのでここではしませんがまあSNSであるという点だけ覚えておけば良いんじゃないでしょうか。Twitterくんのお行儀が悪いあいだはおそらくずっとみすでざ(Misskey.designは”みすでざ"という略称で呼ばれています)にいると思います。
一応、二次創作(表参道名義)はにじみす.moeというインスタンス(サーバー)にいます。表参道(https://nijimiss.moe/@omote_310

絵文字でリアクションができるので気軽な気負わない交流一歩手前、みたいな反応ができるのがのんびりしていて好きだなと思っています。Discordの方には参加していないので昨今の不穏とかは知りませんがなんかあった余波だけ感じたりしているけど……基本的には与えられるものを口開けて待ってるタイプなので消えたらまあここがあるし……みたいな、おそらく一番参加者として最悪な部類にいる自覚だけあります。

つらつら

2023年4月27日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:日差し夏めいている
だけど風はそこまで夏ではないから薄着でいると罠の気分。このあたりの季節、毎年難しい。でも着るのはギリギリ長袖で良いから今くらいの季節がずっと続いてほしい。人間の強欲を遺憾なく発揮していきますよ俺は。

サイトにちまちま手を入れて、この場合の手を入れてというのはフォロワーさんからの知見を得て実践して「本当だぁ〜!!」って手を叩いている状態のことですが、とにかく色々細かなところをいじってそれらしくなってきました。サイトのURL末尾からてがろぐのCGI表記部分を無くしたりね、できるんですね。すごいことだ……。

ところで改めてTwitterの利用規約を頭がはっきりした状態で読んだんですが、これまたなんか変わりました?AI学習云々の部分が一切なくて「俺が見たあれはなんだったんだ……?」になっています。でも今の運営の行儀の悪さ(まろやか表現)に辟易しているのは事実なのでもう一生あそこにのみ生息することはないんだろうな…と思っています。Misskeyのアカウント情報を載せよう載せようと思ってずっと忘れている。

つらつら

2023年4月26日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:宅配搬入出した!
出しました。お昼過ぎから用事があったのでそれをこなして、100均に話題になっていた100円玉と500円玉のみのコインケースを探しにいって(なかった)、伝票をもらって記入して段ボールを封してペッしました。最後で急に面倒臭くなって擬音で放り投げるのはいつものやつです。

ところで今日は気圧がものすごくて、お昼過ぎまではさすがに時間が決まっている用事があるので緊張感からかそんなに影響を受けずにすんでいたんですけど、さすがにもうダメそうな気がしています。いつもよりかは「怠くて眠くてひたすらにつらい」みたいな軽くすんでる感覚はあるのですが、どうなんでしょう。いつもがどれだけひどいかを垣間見てしまい、SAN値チェックが必要です。

つらつら

2023年4月25日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

創作:ある日の拾得物係。
鵠止(くぐどめ)一人(いちひと):同行事務員。ヘタレ。
いろは:配達員。仕事中毒。西暦の陸軍制服準拠。
萩荻(はぎおぎ)主任:拾得物係主任。
七駆(しちかけ)ほへと:集荷担当。馬鹿。西暦の海軍制服準拠。一人のことは「一人(いちひ)っちゃん」呼び。
冬来(ふゆき)夏克(かつか):自称世界の終わらせ担当。ふゆがきてなつにかつ。
内墨(うちすみ):おまじない。/空座(からざ):からっぽ卵。/裏綴(うらつづり):やばいものたち図鑑。
人不成(ひとならず)人非(ひとあらず)人不足(ひとたらず)と合わせて三途(さんず)の一角。やばいものたち。
#郵便屋さんの話

誰がいったか煉瓦の軍艦、丸屋根吹き抜け見事な天井、今日も主任の声が飛ぶ。
「なァんで今日に限って空座(からざ)京葉(けいよう)なんだ!」
「そういう年間計画を立てたのが萩荻(はぎおぎ)主任だからですよ!」
右から飛んできた瓦礫を左で掴む電話で粉砕して、中空に放られていた受話器の根元を一気にたぐる。
放物を中断された受話器の向こうはまるで我関せずの平静で生意気なことを続けて言った。
「ですから帰還しようにも丸の内通用門が閉鎖されているせいで我々が締め出されている状況についての説明と事態の鎮静を求めているだけです」
「あんねえ、いろはくん!」
叫ぶ口元、面布が揺れる。結わいた髪も爆風に揺れる。首紐の先がちゃらりと軽い音を立てた。遠くの方で部下がばたばた死んでいく。
「こちとら二級の封が外れてそれどころじゃねえの!まだ一人くんに内墨(うちすみ)効いてるんでしょ!?空座が京葉で保守点検してっから八重洲の地下から入ってこい!」
「一人さんの内墨は諸事情で効力無効です」
「ほん?!」
「主任!緊急収容手順の五番まで完了です!!」
右から左から喧しいことだ。背後の崩壊はなかったことにする。
どうしてこうなったのかはよくわかっているので反省は後にとっておくとして、ともかく目の前には事象が二つ。
解き放たれてしまった収容手順が複雑な人不成(ひとならず)と、帰ってきた仕事中毒。局に帰るまでが仕事だとあいつに教えたのは誰だった。にやけた馬鹿の顔が一人だけ浮かぶ。あいつだあの馬鹿、今度こそは容赦しない。七駆(しちかけ)の御曹司としてもだ。
「集荷部隊はまだ戻らねえのか!」
「帰ってきててもほへとさんだけですよ!」
「今は馬鹿でも手伝わせろ!」
「お、呼んだー?」
へらりと笑って目の前に飛び出してきた異物を事も無げに排除して、そのまま頭上に迫る鋭利な針状の飛来物をなぎ払い、空間一帯の安全を突如として確保した白詰襟の男が言った。お出まし世紀の一大事、仕事中毒に油を注ぐ史上最高の馬鹿。
「あんねー萩荻ちゃん、俺またおもしれえもん拾ってきたからあとで種別よろしくね」
「ばっかじゃねえのこの状況よく見ろよ!」
等級にして実に裏綴(うらつづり)第二級、簡単に言えば面倒臭い代物、通常の収容手順では害しかないようなもの、人に生まれようとして、そうなれなかった『ひとならず』。生まれついての、人でないもの。
名を与えてはならず、名を書いてはならず、目を見せてはいけない。受容器官を抉り、末端四肢を削ぎ、中央思考に干渉していたはずなのに。
「とりあえず被害はなんでもいい!とにかく空座持ってこい!道なら俺が開ける!」
「ひゅう、萩荻ちゃんかっこいい」
吹けもしない口笛がわりにきちんと口でそう言って、七駆ほへとはへらりと笑う。
「ねえ萩荻ちゃん、俺あれ殺いでこようか」
「おおそうしてくれそうしてくれ、空座が間に合うまでに少しでも抑えられりゃそれでいい」
「任せてよ。お代は薄荷塔(はっかとう)のつけ麺ね」
「”つけ”だけにってか」
「ないわー」
不定形の巨体を持て余すように高いはずの天井まで届くほど手足に似た四肢を、ひたすら数限りなく伸ばし尽くして天井に穴を開けようと試みる異物の五本指は、だからあと一歩届くことなく全て一度に床まで落ちた。
咆哮も断末魔もなく、ただ静かにその衝撃を無音の振動に乗せて空間を揺らす。喧しいのは崩された柱や壁の落ちる音。
一見すれば粉でも練って好き勝手、造形を始める前の遊戯のようだ。乳白色が美しく、全体像は醜いその異物を前にしてすら、白詰襟の眩しさはひときわ陽光に際立って閃いた。
「俺の庁舎壊すんじゃねえよ!」
「おめえは七光りだろうが!」
どう見ても逆手持ちが不利に思える長さの刀を文字通り手の内外で振り回して中空を長く翻るさまは、たった一人で複数の軍勢の肩代わりでもしているようだ。
「あいつ重力って知ってんのか」
「それ主任が言ったらいけないやつです」
さっきから適切に合いの手を入れてくる部下はこれでもうことが始まってから五人目で、先の四人はすでにその辺で肉になっている。
見れば四角の中三つ、中黒の並ぶ荷捌き三等。二級の対処に巻き込まれたか逃げ遅れたか、どちらにせよ今ここで生き残っているなら見込みがある。
「お前今度昇進受けてみろ、きっとすぐ一等になるぜ」
「ええ……嫌ですよこんな職場」
「見込みあるわあ」
ふと思い出して右手に握った受話器を見る。電話の向こうはとうに回線ごと切れていたと思ったが、小心の同行事務員が律儀に保持していたらしい。
「あ、あ、あの、萩荻さん、そちらはいま」
「隣の部下が四回変わったわ」
「え、あのそれは、あ、違う、いろはさんがそちらに向かうとさっき」
「あいつ多分、時刻印押すまで諦めねえよなあ」
「それはそうだと思います。帰還の時刻印でもって業務終了となりますから、その、帰還の定義が満たされないと」
切り刻まれてもすぐに接合し文字通りきりがない異物に対して、体力だけは有り余る白詰襟の馬鹿がひたすら挑み続けてはいるが、さすがにそろそろ埒があかないことには気付き始めていいころだ。
この状況を打破するには、一気に外から包み込んで封じるか、もしくは内部からその細やかな接合一つ一つを確実に迅速に潰すしかない。
それができるのはよりにもよって一番遠く保守点検に運ばれていった空座か、己の仕事にしか関心のない配達員かのどちらかだ。
一人(いちひと)君さあ、なんで内墨切れちゃったの?」
「えっ、もう切れてるんですか……?それは飲んだ本人が自覚できるものなのでしょうか」
「……あの野郎つかませやがったな」
気遣いが下手というより、余計な被害を出さないための懸命な判断なのではあろうが、それにしたって堂々と言い切る姿勢が眩しい。
目眩を覚えた刹那等しく、昇進間違いなしだった五人目の部下が見事に血袋としての役目を果たし、ようやっと道筋が見えてきた。
「よーし、全員聞け!」
つながった。ようやっと開こうとしている道が繋がった。
そも邪魔なのだ、この無駄に歩かされる空間が。そも無駄なのだ、この邪魔な距離の輪郭が。
「第五収容特別定型、目標京葉、対象空座、手順は略式仕方ねえ!責債(さいせき)六人、俺が()す!聞き逃すなよ、応と呼べ!術式三十、"小判鮫"!」
「応!」
分散したあちこちの瓦礫や壁の後ろから、応と答える声が飛ぶ。てんでばらばら散らしたそれは、それでも全て一度きりしか聞こえない。揃いに揃った、珠玉の部下たち。
「体半分持ってたところで意味がねえ!命半分喰われたところで意義がねえ!いいかお前ら、歯ァ食いしばれ!」
第五収容特別定型、通称にして小判鮫。
術式を走らせることで人為的に燐光(りんこう)を発生させる荒技だとは左手を喰われた経験のある事務員の前ではとても言えないが、つまり燐光とは空間同士の干渉により発生する発光とそこに触れるうっかりによって物体が消失する現象のことだ。
うっかり触れて"持っていかれる"現象ならば、きちんと理論でねじ伏せて意のまま"持って来させる"だけだ。
「正答を以て異議異論、回路は誤謬、胚から拝め!」
ぎ、と嫌な音がした。左腕の骨が裂けている。皮膚も肉も正常そのもので、骨のみが内で裂けている。
口上で誤魔化し六人分でその成果をちょろまかそうとしているのだから仕方ない。このくらいなら三日で治る。
五人目の部下は実に良い仕事をしたので、首から上が飛んで行く直前、うまいこと最後の線に連なる具合に倒れこんだ。今までの生きた経験すべてをその血飛沫に変えながら最後の回路を繋げたのだ。いい仕事をした。
回路は一気に廊下を突き抜け誰もが嫌がる遠い歩廊の天井を裂く。とは言えそれは擬似的に、かつ空間だけに作用するので眼前で細く歩廊の様子が見えるだけではあるのだが。
「萩荻主任!」
「おうよ!」
端的な呼応だ、素晴らしい。
一同総出で持ち上げられ、細い隙間へ投げるようにねじ込まれた空座は一瞬、この世の誰の手からも離れて、次いで己の手に収まった。
「空座確保ぉ!」
「ではあとは私が」
端的な会話だ、素晴らしい。
いつの間にたどり着いていたのか、緑を煮詰めて限りなく黒へ近づけたような学生服にも見える制服の、翻る外套は実に優雅な余韻を残して散々切り刻まれた異物へ向かう。
未だその異物を切り刻むことに集中していた白詰襟が、ようやくこちらに気づいたようだ。
「おお、いろはじゃんー。今月業務時間やべえんじゃねえの」
「一人さんは優秀ですので」
常に動き回る思考の中心部分がうまく表皮へ露出するように計算づくで切り刻み、接合具合の調節を続けていた白詰襟にここぞとばかり配達員が加勢する。
右手に掴んだ空座はその楕円の輪郭を今日も静かに温めて、やや生成りのざらつく表皮が美しい。
例外を以てすべてを無に帰す最終兵器。使い方の文法さえ間違えなければ有用な、卵型の安全装置。
「裏綴第二級種別人不成、名称空白、属性肉身、五行七文字例外を命ずる!」
一息で言うにはあまりに重いが、それでも息は限りなく鋭く。
​「"この世にいてはいけない"」
瞬間、左腕の骨が爆ぜた。
右手の中の柔らかな卵は二秒ぼんやり内から光り、さんざこの場を物理的に破壊し尽くしてまわった異物はあっという間に消失する。
まだ中空に放られていた瓦礫の類が最後の一片、床に落ちるまでほんの数秒尾を引いた喧騒は埃が晴れてくるのと同じく、見事その場は沈静した。
「……ぃいっ、でぇ」
肉も皮膚も無事な左腕の、それだけ爆ぜた骨が痛い。
場を仕切る意味もあったがそれより心底からはみ出て来た唸るような訴えに、柱の奥から瓦礫の下からわらわらと部下が湧いて出る。
一番最初に飛んでくるのはやはりいつもの面子の声なのだけれど。
「主任、もー!そうやっていっつも!労災申請の書類を面倒臭くするー!」
「そこ?」
「主任、空座回収します」
漆黒の絹布を恭しく差し出した部下の両手に空座をそっと安置して、自由になる手を確保した。
「第五特別のしかも三十番代を積債六人で上前撥ねようとする人初めて見ました」
「おお、俺も初めてやったよ。意外となんとかなるもんだわ吐きそう」
「腕一本はなんとかなってるって言わねんじゃね?」
文字だけなぞれば和やかな会話に、申し訳なさだけは人一倍の声音が割り込む。
「ああ、あの、ご歓談中にすみません」
「骨やってて歓談はねえわ、一人ちゃん」
「すすすいま、すいませ」
最後の音を見事に噛んで、鵠止一人は気弱な瞳にうっすらと涙を浮かべた。
「あの、どうして裏綴第二級なんかが……」
「どうせ閣下じゃねえの」
人一倍鋭い馬鹿がへらりと正解を言い当てる。馬鹿でなくても今回のようなことに慣れている古株職員であれば、まず真っ先にその可能性に気がつくが。
「かっか…?」
「冬来夏克」
「ふゆきかつか」
「人の形をしたこの世の終わりだ」
何色とも言えない不思議な長髪を翻し、服装だけは一丁前にまともな和装を好み、背の高い下駄を裸足につっかけて呵呵と笑う世界の終わり。厳密には、世界の終わらせ役を仰せつかった自称の男。
「あの野郎、中央に喧嘩売るだけじゃ飽き足らずうちにまでちょっかいかけてきやがる」
「いろはのこと変に気に入ってんだよ。だから一人っちゃんも将来絡まれるよぉ」
「え、ええ……僕は、しがない同行事務員ですよ…なんで巻き込まれ……うう」
困惑の崩壊現場にさらなる困惑を深めて、鵠止一人が情けなく泣いた。
「ここがそういったものを扱う限り狙われはするでしょうね」
「い、いろはさぁん……」
「どうでもいいんだけどよ、誰か担架持ってきてくんねえか」
そろそろ立っているのも辛い。骨のみ砕けてあとは無事、ほかの五体はまるで満足、血の一滴も失われずに重傷だ。
遠くの方から白詰襟とは違った種類の白色いっぱい翻し担架を掲げて御輿部隊が走ってくる。
「通りまーす、通りまーす」
「左右通行、ご協力感謝しまーす」
「前方患者確定、進路そのまま宜しく候!」
「よーそろー」
かつてこの世の七割を覆っていたらしい海とかいうものの上の取り決めで、残された三割の中の限られた平地に建てられた煉瓦造りの長い廊下をひた走る滑稽さはなかなかのものがある。裾を彩る鈴がちりちり、焼けるような音を立てた。
無事に砕けた腕の骨がほかの肉と皮膚と神経を圧迫してそろそろ視界が半分くらいになりそうだ。
「どうして」
同じ滑稽さを感じたわけではないだろう、まだべそべそと泣いていた気弱な同行事務員がぽつりと疑問で空気を揺らした。
「どうして世界を終わらせようなんて」
すでに三回、終わっているのに。
西暦は消え、東暦は潰え、南暦に至っては三桁で終わった。
四度目始まりの陽光なんか知りやしないが、残された北暦が今まさにこの呼吸の最中だ。
「知るかよそんなの」
「我々には若干の確信があります」
同じ呼吸で、白黒別のことを言う。
余計なものを拾ってくるのに忙しい集荷担当と、見事捌かれた荷を届けることしか興味のない配達員。
左右から相反することを言われてなおさら泣きそうな眉が歪んだ、左手を燐光に喰われて拾われた唯一の同行事務員。気弱ながらなんとか今ここに二本足で立っているなら上出来だ。
ここ数年の感覚で姿を見ない局長。特別収容物をこともなげに解放し、あらゆる損壊を引き起こす人型の災厄、自称世界の終わらせ役。役者は要所に揃っている。
異物に破られた丸屋根が既にその外壁を修復しつつあるのを見上げて、膝裏を御輿部隊にどつかれた。
「患者、拾得物担当萩荻主任」
「おうっふ、優しくしろよ。怪我人だぞ」
「でしたら、素直に優しくさせてください。担架へどうぞ」
何事からも己を引きちぎって平坦を保つ布地に身を預けるのは久々だ。
あちこち穴が空き、崩れ、それから自己修復されていく抜けた天井、砕けた柱、破れた壁、めくれ上がる床。
「これ中央への請求額どうなるんだ…俺は損害概算しねえぞ」
「患者、安静に」
「へい」
ともあれ自体は一番の混乱を超えているはずだ。このあと利き手で書類へ署名できるのはしばらく先になるはずだから、二番係に署名権限は委譲され、(かかり)筆頭(ひっとう)が泣くだけだろう。
「萩荻主任!てめえほんと五ヶ月先まで恨みますからね!」
「おー、覚えてたら椿通(つばきどおり)連れてってやるよ」
「言質!言質とりましたからね!」
予想通りどこかから飛んできた恨み言を投げ返して、そろそろいい加減御輿部隊からの殺意に口を閉じる。
左半身がまるで燐光に喰われたような感覚だ。どこも喰われた経験はないが。
「俺このまま死ぬ?」
「患者、死なせはしません」
「我々はそのためにいます」
頼もしい言い切りもどこか耳の後ろ、遠くから聞こえてくる。
これはいよいよ己自身をまず休める段階へ来ていることをさすがに自覚して目を閉じた。
少しの御輿の揺れから治療室らしき匂いが香って扉が閉まる寸前、頭の奥でなにかが呵呵と笑った気がした。畳む

一次創作

創作:郵便屋さんの話。
世界が三回終わった北暦(ほくれき)で教員を頑張ろうとして郵便屋さんに拾われる話。#郵便屋さんの話

すでに三回終わりきった四回目の暦だとして、己自身の終わりを明確に意識できる機会に見舞われるのは、それでもきっと珍しい。
無意識で飲み込んだ生唾が動かした喉仏だけが突きつけられた切っ先の下で唯一、呑気だ。そのまま息をするのも許されそうになくて、思考回路は迷走を極めていく。
打開のために喉を震わせたのは、しかして情けないほど引きつった声だった。
「く、鵠止(くぐどめ)一人(いちひと)二十七歳中央研究室付属第三校考古学専攻学科准教授好きなものは『薄荷区(はっかく)』のみつ豆で趣味は裁縫嫌いな食べ物は蜂の巣です!!」
後半、自棄である。
徐々に勢いづいて大きくなる声量は多少周囲の木々を揺らしはしたが、目の前にある凛、と音でも鳴りそうな人影には一片も響かない。
一見すると真っ黒な、深い緑を煮詰めたような少し青みの色彩で統一された、西暦のころの学生服と軍服を合わせたような詰襟。
暗がりによくとけ込みそうな外套の中、すらりと伸びる四肢の中心、陣取るように華奢とも言える細面。行儀よく頭を包む制帽は深く被っているわけでもないのに、ずいぶんと目元に落ちる影が濃い。
「怪しいものではないんです、ほんとうです、ほんとうなんです所属は中央に問い合わせてくださいしがない実地検分途中の准教授なんですほんとうです……」
「常套句とは、わかっていらっしゃるようですね」
呆れたような声色で、ようやく刃は喉から引かれてあるべきところに収まった。
「少なくともこちらが定めた入り口以外から敷地内に入る時点で、だいぶ怪しい自覚はおありで?」
「うう、すいませんどうも道に迷ったようで」
この瞬間、さきほどの自暴自棄な名乗りと自己紹介の後ろに方向音痴も付け加えられたに違いない。
確かにどうみてもここは建物の裏手側の類、少なくとも来訪者に開かれた雰囲気ではないし、周囲は控えめに見ても森だった。
踵を返した制服姿の向かう先、重厚な煉瓦作りの赤茶色い建物は、いくつかの丸屋根を戴いて避雷針がわりの風見鶏をぬるい八月の空気に回転させていた。
そのくせ、空はどんよりと灰色である。
「あの、あ、あの……ええと」
「どうぞこちらに。出自がどうあれあなたもここにいるということは、そういうことです」
「はい、ええと、はあ……」
説明しないわけではないが、言葉を増やすつもりもないらしい。
自己申告はすべて事実で、なにをどうしてこんなところに出たのかわからないのであればもはや翻るその後ろ姿を追う以外にはないのだ。
山道を歩く予定なのだから慣れた靴を、と選んだ半長靴がためらうほど磨かれた廊下を少し歩いて通された一室で外套と鞄を所定の位置であるらしい壁に掛け、ようやく敵意のなさそうな手が差し出された。
「どうぞ、おかけください。いま担当を呼びます」
白手袋の示す先、一人用の革張りの椅子。二つ並べられた左右のどちらか選びかねて、いっそ対面の二人掛けを占有してしまおうかとも思う。
三つある選択肢のどれを選んでも居たたまれない気持ちに差異がないならと腹を括って、利き手の方に荷物を置いた。
そんな葛藤を知ってか知らずか、内線らしき黒電話に置かれた受話器がちりんと一つ無自覚な金属音を立てた。
慣れている、のだろうか。何を言っても言い訳にしかならないような不法侵入以外の言葉を欲しいくらいの状況と、その対処に。
いつの間にやら出されていた、美しい緑茶で満たされた湯のみで右手を暖めながら、曇る眼鏡に少しだけいつもの悪態をよぎらせる。
「さて、担当が来るまでに少しお話を伺いたいのですが」
「うぇおっ、う、はいっ、どう、ず」
「道に迷ったと言われましたね、実地検分とも。麓のあたりにお宿が?」
問われて初めて、絶句した。
「……ええ、と」
空が、どんよりと灰色である。
「わか、り、ません」
まるでそこだけ、丸ごと抜き出されたようだ。
例えば続き物の小説の中巻、調べたかった百科事典の"か"行第七巻、箱の形で思い浮かぶのはきっと普段から書物に囲まれているからだろう。
素直な自己申告は、すべて事実だ。
「なるほど、よくわかりました」
そんな答えでも、及第点以上ではあったらしい。
「先にご説明しておきますと、先ほど呼んだ担当者は遺失物係の者です」
「遺失物、ですか」
「付け加えて、ここはそうった"失くしもの"を探す方の照会先としても機能しています」
無くす、亡くす、失くす、ありとあらゆる、なくなってしまったもの、者、物。
「ぼ、くの場合は、それが、出自ということですか」
声が掠れる。いつものことだ、緊張したり戸惑ったり、臆病で過敏な精神にこんなところだけが従順だ。
「いいえ、出自は先ほどご自分で述べられた通りです。厳密に言うのであれば、直近の記憶と言うところでしょう」
「い、いま、今日は何月の、いつですか」
「八月の十七の日、夏時間ですので中間を過ぎて七時と十二秒ですね」
最後に暦の一覧を見たのはいつだったか。
もともと研究職ゆえか世間一般の動きとは盛大にずれのある、よく言えば縛られない生活をしていた。縛られるとすれば唯一、論文やら試験問題やらの締切日だけだ。
試験問題の。
「し、試験、だったはずなんです。夏期休暇前の、二期の、進級試験で、一学級全体で取り組む実地を含んだ、もののはずで」
確信が、確信だけがない。感覚はそう示す己の過去に、普段であれば何も言わずに付属するその確信だけが、今はない。
失くしたものは、その確信ではないのか。
「試験、問題の……流出があって、それで、急に、準備のできないようなもので、することになって」
「その先は、担当者が詳しく伺います。ところで」
混乱を落ち着かせようとする意味か、明らかに意図して言葉を切った。
「あなた、どうも左手も失くされてるようですが、お気づきですか」
「え、」
確信と、左の手。
見やる先には空っぽの袖。右手だけを暖める、湯のみ茶碗。
確信と、左の手。
木々が揺れる。座っているのに足下が揺らぐ。風もないのに風見鶏は回る。

空は、どんよりと灰色。畳む

一次創作

日記:リンク追加したりなんだり
ABOUTに好きサイトさんのリンクや、ページ下部にあるんですがてがろぐ、スキン配布サイトさんのリンクを追加しました。やったね!

最近はTwitterがどうにもこうにも胡散臭いというか「ああ……俺の手を離れたな……」というか、そもそも手中にはあるものではなかったんですがそれを差し置いてもさらに遠くに行ってしまったな、というのが体幹として強くあります。
そもそもツイートがフォロー中とおすすめに別れたあたりから雲行きが怪しくなり、ツイートが間引かれてくるようになったあたりからだいぶ不信感があり、いよいよRT表示の仕様が変わったりおすすめタブに非公開アカウントのツイートが紛れてくるとかいう地獄の様相を呈してきたあたりからだいぶ心が離れておりますね。

あと利用規約の変更で投稿された全てのメディア(文章を含む)が親会社のAI学習に問答無用で使われるあたりもうだめだな………という感じです。利用規約、すべての文章がわかりにくくて読みづらいので「俺」「お前」「あいつ」とかのフランクな文章に翻訳してくれんか………になっている脳の状態で読んだからだめなのかもしれない。二度と読める気がしない。冒頭の「やったね!」からの落差がすごいな。

つらつら

2023年4月24日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:もさもさ追加した
いままでの擬人化創作とか二次創作とかを小説、文章メインでいろいろ追加しました。カテゴリ作ってあるのに0なの悲しいので…………。悲しいついでに一連の擬人化シリーズ名がタグにすると感嘆符がハッシュタグにならなくてしょんぼりしているのもあります俺はいつもこうだ。

ピクシブにもいくつか擬人化小説を上げているので、そっちも引っ張ってこような。短歌もノートにばらばらに詠んでいるせいで急にジャンルの一首だけ紛れていたりして「どうして」って言ってる。過去の俺、どうして。現時点の俺がとまどっています、そういうのやめてください。と言ってもその時々で整理するときの基準が違うのでたぶんいまの俺も将来的な俺に「どうして」って言われるんだろうな。
仕事帰りに忘れずにガムテープ買ってください(宅配搬入)

つらつら

映画感想:「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を観たよ!の話。ネタバレ。(初出:2023-03-08 15:52:41/くるっぷ)

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、全宇宙規模のでっかい家族愛の話で良かったな……その軸がぶれないので安心して観られた。
あくまで終盤の他人の願望救済もジョイの手を掴むために、そして離すために道を開ける必要があったからで、エヴリンにその救い自体を望んでない(あくまで副産物的に生じていた。結果としてジョイなるに追いつくと言う望みは叶う)っていうのがわかるのもとても良い。
ジョイの思春期の話であり、自分の性自認についての葛藤であり、母にそれを認められたいという家族属性の中で生き残るのに必要な要素を満たされないままの人間の姿であり、それはエヴリン自身の過去でもあり……得られなかったものをどうやって手放してあるいは手放さなくても隣においておけるか、と言う話だった。

自分が親にされて傷ついたことを、親として自分の子供にしたくない、っていうの、父親への反抗とエヴリン自身への自己救済(自分が自分を救うんじゃい)というエゴのかたまりの一片でよかったですね。エヴリンが最初自覚的でなくて、でも最後に一回ジョイの手を離してベーグルへ進ませること、それはジョイ(ジョブ・トゥパキ)の消失を願う直前の父親とは全然違う理由からなのもあの怒涛の映像の中であれだけわかりやすく描いたのすごいなあ。
結局、自分がされたかったことを他人にするという行為は遡ってしまえばエゴでしかないんだけど、そのときどきにおいて確かに他人への救済にもなりうるんだよ、って言葉で語るとごちゃごちゃとした注釈で本題が隠れるほど必要になりそうなところをあのライティングも衣装も重力もめちゃくちゃな画面の中ですっと出されるのすごい。

じわじわと咀嚼して思うところとして、途中、ソーセージハンドバースのエヴリンと税理士さんがパートナーになってところにいま(暫定的に”いま”とします。一番最低の「なんでもできる」エヴリンのこと)のエヴリンがジャンプしちゃって大騒ぎするところあるじゃないですか。
あれって、本編が「家族愛」(家族とは言え個人個人、別個体、あなたとわたしはちがう、個人間のでっけぇ愛の最小構成単位になりうる立ち位置、理解しなくていいから隣にいたい、いていいよって言って、)の話である以上、なんとなくだけど今後、家族を構成しているエヴリンやその家族たちにふりかかるであろう認知症のことも示唆しているのかなあ、とか思ったりもする。
急に人が変わったようになってしまっていままでの関係が難しくなる、ってそれだけ書くと「あ〜………」という理解というか結論が見えてもおかしくないなあ、と。まあこれは俺の母方の祖母が認知症になってしまっている昨今の現状が強く閃きに影響しているのかもしれないけど。ただね、忘れていくだけじゃないよ、っていう、寄り添いのそういう、やっぱあそこも家族愛のことだよなあ。人間と人間の最小構成単位を「家族」とした場合の。

家族愛の話でありながらも、家族愛がすべて!!!ほら!ってやってないところ。あくまで人間と人間の間に交わされる愛情っていうものの一つのかたちとしての家族という単位、共生構造であるだけでそれがすべてではないしそれが至上でもない、っていうのは散々描いてくれているので心がざわめかなくてよかったです。
参道家はめちゃくちゃにまともな家なので両親から幼少時より「家族といえど他人であり、他人である以上はお互いに敬意を持って過ごす必要があり、あなたが成人するまであなたは自分のことに責任を取ることが法律上できないので、その責任を追うために我々(両親)がいます」という説明をたびたび受けてきたのでフィクション作品の「家族」像を見ると「大変だな……」ってなることの方が多いんですが(ていうか九割そう。そうならないの、主人公たちが成人済みでこざっぱりした家族関係が描かれてるときだけ)「エブエブ」はそのへんもうまく見せながら最終的にあの家族は家族という単位にまとまりましたよ、でも全宇宙のほかのバースは知らんけどね、をやったのすごいよかった。
よかったしか言ってないけどよかったんですよ………とても……………!!!!!!!

思い出したらまた書くかも。畳む
#映画感想

つらつら

2023年4月23日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

日記:先頭固定のこと解決した
しました(結論)
てがろぐは設定をどうにか変更するものと、スキン側のCSSなどを触るものが混同していて「どっちだ…!」になりがちですが八割はてがろぐ側の設定などであるという知見があります。それしかないとも言う。

今日はCOMITIA144の荷造りをして宅配搬入の準備をして…と思っているんですが喉が痛くてアイスばっかり食べていたり荷造りが全然進んでいなかったりでいまです。あとガムテープが見当たらなくて部屋の真ん中で「おおっとそうきたか」と誰かに向けて喋っています。
そういえば最初の方の日記で『仮想敵を作るな』というモットーについていつか書くかもしれないと言いつつ書いていないですね。はい。いつか書くことが本当になくなったら書きます。

つらつら

短歌:一次創作、あるいはなんでもないもの
詠みためたもの、うたよみんやTwitterやmisskeyに投稿したもの。気が向いたらまたまとめて別に投稿する予定です。

日本語の一番最初はあいから始まる 猫の瞬く最微速見る(最微速についてはこちら
人生はいつなんどきも今までを切り売りしていく商売であり
「髪の毛は長いと意外に便利だよ」笑った君と髪が燃えてる
わりと今にやけているにはそれなりの理由があるが君のことでは
この海か空にひとすじ凛とした傷をつけたら散ってもいいかな
刑場に行けば我らの栄光の証があると君が言うから(付記:革命)
海を知るこのあしもとは永遠にあの砂浜を踏むことはない
言い訳と詭弁と理由と弁明と君の傷とのあわいはどこだよ
君を詠むための言葉が足りないのとらえどころがないからでなく
恋とかいう心の臓に溢れてる口に出せない血潮の色して、
天国も地獄も君の主観であって、君の奈落に僕はいなくて
その愛をただ一色で映すには、もったいなくて黒点を指す
個々人の名前はいずれ数になり乗員乗客総数となる
星光る声が呼ばない夜を知る 三角定規で平行線引く
いつかまた海に焦がれる時が来る 今はそれまですくすく往けよ
僕の中の怪物が君を食べようとして火を吐いた夜だよ
物言わぬ潮風に旗靡かせて さんざめいている 君が手を振る
海なんかもう何年も来ていないみんなそこから産まれてきたのに畳む

一次創作,短歌

擬人化:エイジャックスさんが陸さんをさらいに来る話。
ふたりの距離が近いです。好きの種類が違います。#GAS
もう攫っちまえば良いじゃねえか、と、あまりに急な速度で正答が得られたものだから、驚いてしまうのが何より先で、気が付いたら市ヶ谷に居た。
(……?)
己でもよくわからない。
余生というにはあまりに無為な展示での保存をされていた。毎日天を廻る太陽と月とそれから曇りと雨と星と風と、ともかく自然をその身で感じている以外になかった余生に、突然後輩がど真ん中の正論を突きつけてきたので気がつけばここに居たのだ。
本体は置いてきた、のを感じる。そもそも退役して久しい上に、もともと所属に関しては何やら組織間でしっちゃかめっちゃかしたらしい余韻は端々から感じていたし、攫ってしまおうと思うに至った経緯もそこにほのかに起因しているし、何より年月が経ってもうあのこは「あのこ」なんて呼べるほど小さくもないのだろう。
(いちがや……)
後輩がいるはずだ。ここは陸海空の全てが揃うから、隊でも呼び方が様々でなんだかややこしいのだなぁと人間を見ていた気がする。
もう、あの土地で長らくを過ごしすぎて、離れすぎて、記憶も曖昧だ。
(……あいまい、なのに、)
曖昧なのに、攫おうとは思う。想う。
もう姿形も規模だって大きく違うあのこを、攫おうと思ってここに来る。
一個体のありもしない心など、いずれ薄れて消えていくと思っていたのに、今でもこんなに未練がましくしがみついているのかと、日本という国に供された己のことを振り返る。
(見つかる前に、)
配備されている後輩に見つかる前に捜しださねば。
決して後ろめたいわけではなく、ただただ愛について独特の感覚を持つ後輩に悟られて捕まって根掘り葉掘り聞かれると時間ばかりがすぎて目的達成が遅れるからだ。
(どこ、に)
居るのだろう。
陳腐に言えば絆、のようなもので確かにその存在は、少なくとも気配だけはここに感じている。さわさわと頬(と認識している場所)を撫でる何がしかの、形容しがたいざわめき。
ぽつんと、気がついたら立っていた場所で辺りを見回しても程よく視界を遮りそれでいて邪魔にはならない木立と、直線をふんだんに利用した建物と、ガラスの鈍い反射と、空。
勝手知らない立場には限りなく不親切だが、そもそも招かれてはいないのだからその不便も甘んじて受けよう。
(…………りく、)
ぼんやりと立っているだけに見えて感覚は周囲にできるだけ展開し、僅かな振動も逃すまいと感知しては選別を続ける。
気配、足捌き、衣擦れ、呼吸、あのこの、全部。
「んっ……?!え、い、じゃっくす?」
(……!)
ぴこ、と視野を遮らない前髪が反応した。
アンテナかレーダーだかの具現なのか、己の反応を如実に表すこの前髪も今はなかなか役に立つ。
「お、お前……なんで、いや、そもそもエイジャックスか?」
(です)
ゆっくりと瞬きをしてふんわりと肯定する。
その反応はこのこと一緒にいた時に散々やったいつもの肯定の動作だから、もうそれだけでほかの要素は要らないくらいだ。
「あ……、うん。いやそれでもだな、あれか、お盆にはまだ早いぞ……?」
(Festival Of The Dead.....”O-bon”...)
「なんか違うがちょっと正しい……死んでないしな……」
​以前からそうだっただろうか、少し色味の変わったような緑色に身を包み、すらりと伸びた体躯があまりに眩しい。
メンダコみたいだ、と言われた瞳孔がなおさら細くなって、眉間にしわがよる。
(まぶしい)
「そうか?今日はそんなに日差しも強くないが……」
律儀に天を仰いで太陽の位置を探すあたり、あんなに小さかったころと何も変わっていなくて、魂が安堵した。どこにもないはずの、魂。
「ところで、本当にどうしたんだ、エイジャックス。向こうで何かあったのか?」
(ん)
ゆったりと頷く。
出会いがしらの驚きを越えて、納得はさておき本題に切り込める余裕ができた。
(攫いに、来た)
「……さら、いに」
(うん)
「……浚う方、ではなく」
(うん)
「さんずいではなく……いや、そもそも俺はいま英語で話してるか?」
(半々)
「半々か……」
どうにも意思の疎通が音声に頼らないので、相手も相手で言語の間を行ったり来たりしてしまう、らしい。
母国から無償提供されたところが発端だから、己も己で二つの言語をあちらこちら、言葉の選びに迷ってしまう。
「具体的に、どう攫うんだ」
(……ん、と)
こう、と言うが早いか柔らかく手首を掴む。
昔は二本まとめて片手に収まりそうだったのに、今では親指と中指が一周して触れるかも怪しいほどに逞しく、筋張っている。
(………)
「うん、それで」
(……あの辺の、芝生で、座る)
「うん?……うん、まあ、いいが」
こっち、とふんわり踵を返して手を引くというにはあまりに力の入らない手首の保持を続けながら、そよそよと風の吹くコンクリートを歩く。
さすがに土足で(しかも己は踵が高い靴だ)柔らかい芝生を踏むのは遠慮したいから、空いた手で縁石を指してここ、と視線を投げかける。
(だめ?)
「駄目じゃあないが……俺がいるから、外も行けるぞ」
(そと)
外。
元来、陸自とそれに類するいわゆる陸軍は、その場その場に長く居ることを前提に行動する。
ゆえに「駐屯地」と呼び習わすのだけれど、だからこそ、その場から外に出ることにはあまり意識が向かない。その領域に、揃っているから。
このこはどこにも、いないのだけれど。
(………さんぽ)
「うん。そうするか」
(いいの)
「ああ、この後はそこまで予定もない。なに、空が基地から戻る前に帰れば見つかることもないだろ」
空、と呼ぶ、ひとのかたちの組織。
己と後輩の所属を争ったらしい、二つの組織。
「時間を考えると…この辺一周くらいか。なんなら市ヶ谷ツアーでもするか?」
(……君が居たらいい)
ふるふると、首を振る。その瞼の裏で、仮にも誘拐犯に今後の行動を提案するひとがどこにいますか、と海担当の彼がものすごい剣幕で迫ってくるのが目に浮かぶ。
多分、同じ予想がこのこの中にも浮かんではもうすでに消えて、それを踏まえた上での提案なのだとよくわかる。
「なんだって攫いにきたんだ」
(………)
そ、れはね、とありもしない心に反して意志が表に出そうになる。
君とどうしたって離れたくはなかったのに、今はもうどうしたって離れているしかないから、どうしたらいいかと思っていて、それは日々の中に細かな砂塵が溢れるように薄れて薄れていくものだと、思っていたのに。
「何でもいいがな。さて、ペトリやら海やら、見つかるとうるさいのに見つかる前に行こう」
(………うん)
ぺとり、と呼んだ。
後輩の名前だ。後輩を通してすら、こんなにも遠い。
(会いたいだけじゃ、だめですか)
つかんだ手首に目を落とす。
人の集合体たる組織の具現は規則正しく脈を打つ。
会えて嬉しい、元気そうで、楽しそうだ、瞳が濁ってなくて、声に芯があって、体幹はすらりと伸びて、まっすぐに、愛おしい。
この「好き」という形容ひとつに落とせる余波が、どの属性かは決めかねていて、おそらく全部が含まれていて、だから伝えずにいようと思って。
「エイジャックス」
名前を、呼んで欲しかった。
攫おうとなんて、しなくてよかった。
(なまえ、)
「うん?」
を、
「エイジャックス?」
飽きるほど呼んで。飽きたりはしないで。
ずっと呼んでいて。焼き付けてしまって。

きみがおれのなまえをよぶのがすきだった。畳む

擬人化,一次創作

擬人化:なんだかんだわいわいしてたらいいなという話。
陸自駐屯地・装備品擬人化小話。下志津駐屯地の駐屯地記念行事には空自の装備も来ますという話。
登場人物:下志津駐屯地、習志野駐屯地、習志野分屯基地、ペトリオット #GAS

​緩やかな風に香りは流されて、視界いっぱいにはむせ返るような物量のつつじの色とりどり。
広い芝生の上に賑やかな露店、走り回る子供達、人目につかないところできびきびと動く部隊をよそに、訪れた人々が和やかに開始を待っている。晴天、眩しいほどの美しい朝。
「わあ……のどか……」
迷彩のもさもさしたものに覆われた己の一部の足元で、三角座りのまま思わず素直な感想が声に出た。
隣で同じように最終調節を行いながら開始を待つ習志野分屯基地が少しだけ己に視線をやって、またすぐに真正面に広がる演習場に目を戻す。
広さで言えば狭い方、少し走れば端から端までたどり着く敷地にこれでもかと言わんばかりに装備品が仕込まれて、さらにこのあと増えるのだから見ものである。己も参加するのだけれど。
式辞やなんかは自分たちのためにはないから、ただただお行儀良くしていることが今の仕事だ。
「ペト、緊張感」
「はい」
三角座りでいる時点で、威厳も何もないように思うが全く意識を持たないのとでもまた違う。少しだけ姿勢を正す。
このひとが、己の運用者であるこのひとが、ぺと、と名前を呼ぶのが好きだ。名前自体も略称で、世間一般と発音から違うのだけれど。
場内に向けて涼やかな声が開催を告げ、慣れ親しんだ物々しさで部隊の入場が始まり、きびきびと次第が進行していく。
芝生と違った緑に赤の差し色が眩しい制服、煌めく楽器を整然と奏でた音楽隊が退場し、にわかに観客席の緊張感も高まったような気がした。
「ペト」
「はい」
ここからは己も参加する展示訓練、淡々とアナウンス。状況開始の号令。
すらりと立ち上がり、事前に知らされたタイミングを待つ。海の向こうでやるような実弾を打つことはないけれど、それでも訓練とは言え己の本領発揮が想定されている以上、どこにあるのかもわからない心と呼ばれるだろうものが興奮で沸き立つのは変わらない。
飛翔体、敵の飛翔体。俺が落とすもの、ぶつけて殺すもの。愛をもって丁寧に、最後まで殺しきるもの。殺しきらねばならないもの。
もちろん見えてはいるのだが、周囲から見ると閉じているように見えるらしい目を、最大限に見開く。よく見える。空が、よく見える。
あの中にもし飛ぶものがあれば、脅威をもって飛んでくるものがあれば、己の出番だ。本当は。訓練、構えるだけ、飛ばす振り、想定と仮想のみ。
惜しい、と思う。いいな、とも思う。たとえ空砲であれどあの装備品たちは実際に打ち出す挙動まで行えて、いいなと思う。空を飛ぶ同僚たちは、この思いを抱くのだろうか、例えば富士の山麓で。
己のシステムが脅威など何もないと伝えてくる。目で見るよりも明らかで、詳しくて、信頼できる己のシステム。
状況終わりのラッパが鳴り響く。観客席も動き出す。己はこれから、展示品。
「ふにゃふにゃしない、動的展示もあるんだからね」
「ひゃい」
気を抜いているわけではないが、噛んだ。
再び己の一部の足元で三角座り。少し動かす展示はあるが、あとはほぼほぼ動きもしない。迅速に広報用の展示準備がなされていく。
広場の向こうのほうに、敷地を同じくする部隊のブースが展開されていく。
「習志野さん、風でしたね」
「……なんかあのひとが風邪引いたみたいに聞こえるからやめて」
「風邪引くんですか習志野さん」
「いや……引いても気づかなさそうというか、自覚の前に体内で殺菌されてそう」
「あっ、ちょっとわかる」
習志野駐屯地、と言えばわかる人間にはわかる。第一空挺団、と言えばなおさらのことだ。精鋭無比の、とんでも集団。
「おう、習志野ちょっといいか」
「はいよ、何?」
「動的展示の時間だけどよー」
下志津駐屯地そのひとがバインダー片手にやってきて、なにやら時間の話をしている。
先程までの緊張感は何処へやら、場内は完全にお祭りの和やかさと賑やかさを取り戻して、吹く風に満開のつつじが香る。
多少の波はあれ、人が途切れることもなく写真写りを気にして姿勢を正し続けていると、見知った顔が増えた。
「あれ、習志野さん、帰ったんじゃ」
「運動不足でよ」
天候次第とは言え、降下直前まで準備していた習志野駐屯地そのひとである。
「えっ、あんたなんでいるの。降下中止で帰ったんでしょ」
「徒歩十五分だろ、ここ」
「なんで徒歩が車で来るより早いの、おかしいでしょ」
同じ千葉県内、距離にして約十三キロ。常人の足で約三時間、車で四十分を徒歩十五分と言い切る豪傑である。
「あたまがおかしい、って習志野さんが言ってました」
「ぺと!お口チャック!」
「ぬん」
「最近褒め言葉じゃねえかなって思ってきた」
「えっそれはちょっと待って普通に褒めてないから」
己の所属地でよく見るやりとりだ。そもそもこの駐屯地と分屯基地という所属が違えど所在地は同じ、という成り立ちから複雑で、かつそこには現在地であるこの下志津駐屯地も大きく関わってくる。
所属組織の、手の届かないところの話だ。本国で己の先達として開発運用されたものたちの話でもある。
「……のどか」
「ぺと、そればっかだね。気に入った?」
「秘密です」
「なにそれ」
んぬふふ、と閉じた口から笑いを漏らす。
「お?習志野、来てたのかよ」
「おう。邪魔するぜ」
駐屯地同士の端的な会話だ。
ぺと、と己の運用者たるひとが呼ぶのが好きだった。ペト、とその隣のひとが己を呼ぶのも好きだった、受け入れられている気がして。
ぺと、と、もしかしたら己を運用するかもしれなかったひとが己を呼ぶのが好きだった、その名前の中にあらゆる先達の面影が含まれていて。

いつもこの門をくぐるとき、思うことがある。声には出さない。どこにあるのかもわからない心とかいう中でだけ。
──ただいま。畳む

擬人化,一次創作

二次創作:結局、我々は敵の言葉ではなく友人の沈黙を覚えているものなのだ。
タイトルはキング牧師のことばから。
実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。
生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀
主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg


実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。
高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。
それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。
何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。
ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)
「やることがさぁ……コスいんだよな」
呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。
姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。
「人間ドックタグ……ってか」
鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。
死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。
伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。
相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。
「まー、何でも良いんだけどね」
着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。
「うぇ…今日は折れないと良いな」
火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。
五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。
着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。
持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。
窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。
暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。
昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。
「お待たせ。じゃ、行こうか」
空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。
ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。
今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。
「まずそこからだよなぁ」
不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。
未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。
こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。
端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。
「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」
先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。
土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。
あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。
「生きてるって楽しいねぇ!」

骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。
踊りながら、死と笑う。畳む

二次創作