全年4月23日の投稿[5件]
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短歌:一次創作、あるいはなんでもないもの
詠みためたもの、うたよみんやTwitterやmisskeyに投稿したもの。気が向いたらまたまとめて別に投稿する予定です。
日本語の一番最初はあいから始まる 猫の瞬く最微速見る(最微速についてはこちら)
人生はいつなんどきも今までを切り売りしていく商売であり
「髪の毛は長いと意外に便利だよ」笑った君と髪が燃えてる
わりと今にやけているにはそれなりの理由があるが君のことでは
この海か空にひとすじ凛とした傷をつけたら散ってもいいかな
刑場に行けば我らの栄光の証があると君が言うから(付記:革命)
海を知るこのあしもとは永遠にあの砂浜を踏むことはない
言い訳と詭弁と理由と弁明と君の傷とのあわいはどこだよ
君を詠むための言葉が足りないのとらえどころがないからでなく
恋とかいう心の臓に溢れてる口に出せない血潮の色して、
天国も地獄も君の主観であって、君の奈落に僕はいなくて
その愛をただ一色で映すには、もったいなくて黒点を指す
個々人の名前はいずれ数になり乗員乗客総数となる
星光る声が呼ばない夜を知る 三角定規で平行線引く
いつかまた海に焦がれる時が来る 今はそれまですくすく往けよ
僕の中の怪物が君を食べようとして火を吐いた夜だよ
物言わぬ潮風に旗靡かせて さんざめいている 君が手を振る
海なんかもう何年も来ていないみんなそこから産まれてきたのに畳む
詠みためたもの、うたよみんやTwitterやmisskeyに投稿したもの。気が向いたらまたまとめて別に投稿する予定です。
日本語の一番最初はあいから始まる 猫の瞬く最微速見る(最微速についてはこちら)
人生はいつなんどきも今までを切り売りしていく商売であり
「髪の毛は長いと意外に便利だよ」笑った君と髪が燃えてる
わりと今にやけているにはそれなりの理由があるが君のことでは
この海か空にひとすじ凛とした傷をつけたら散ってもいいかな
刑場に行けば我らの栄光の証があると君が言うから(付記:革命)
海を知るこのあしもとは永遠にあの砂浜を踏むことはない
言い訳と詭弁と理由と弁明と君の傷とのあわいはどこだよ
君を詠むための言葉が足りないのとらえどころがないからでなく
恋とかいう心の臓に溢れてる口に出せない血潮の色して、
天国も地獄も君の主観であって、君の奈落に僕はいなくて
その愛をただ一色で映すには、もったいなくて黒点を指す
個々人の名前はいずれ数になり乗員乗客総数となる
星光る声が呼ばない夜を知る 三角定規で平行線引く
いつかまた海に焦がれる時が来る 今はそれまですくすく往けよ
僕の中の怪物が君を食べようとして火を吐いた夜だよ
物言わぬ潮風に旗靡かせて さんざめいている 君が手を振る
海なんかもう何年も来ていないみんなそこから産まれてきたのに畳む
擬人化:エイジャックスさんが陸さんをさらいに来る話。
ふたりの距離が近いです。好きの種類が違います。#GAS
もう攫っちまえば良いじゃねえか、と、あまりに急な速度で正答が得られたものだから、驚いてしまうのが何より先で、気が付いたら市ヶ谷に居た。
(……?)
己でもよくわからない。
余生というにはあまりに無為な展示での保存をされていた。毎日天を廻る太陽と月とそれから曇りと雨と星と風と、ともかく自然をその身で感じている以外になかった余生に、突然後輩がど真ん中の正論を突きつけてきたので気がつけばここに居たのだ。
本体は置いてきた、のを感じる。そもそも退役して久しい上に、もともと所属に関しては何やら組織間でしっちゃかめっちゃかしたらしい余韻は端々から感じていたし、攫ってしまおうと思うに至った経緯もそこにほのかに起因しているし、何より年月が経ってもうあのこは「あのこ」なんて呼べるほど小さくもないのだろう。
(いちがや……)
後輩がいるはずだ。ここは陸海空の全てが揃うから、隊でも呼び方が様々でなんだかややこしいのだなぁと人間を見ていた気がする。
もう、あの土地で長らくを過ごしすぎて、離れすぎて、記憶も曖昧だ。
(……あいまい、なのに、)
曖昧なのに、攫おうとは思う。想う。
もう姿形も規模だって大きく違うあのこを、攫おうと思ってここに来る。
一個体のありもしない心など、いずれ薄れて消えていくと思っていたのに、今でもこんなに未練がましくしがみついているのかと、日本という国に供された己のことを振り返る。
(見つかる前に、)
配備されている後輩に見つかる前に捜しださねば。
決して後ろめたいわけではなく、ただただ愛について独特の感覚を持つ後輩に悟られて捕まって根掘り葉掘り聞かれると時間ばかりがすぎて目的達成が遅れるからだ。
(どこ、に)
居るのだろう。
陳腐に言えば絆、のようなもので確かにその存在は、少なくとも気配だけはここに感じている。さわさわと頬(と認識している場所)を撫でる何がしかの、形容しがたいざわめき。
ぽつんと、気がついたら立っていた場所で辺りを見回しても程よく視界を遮りそれでいて邪魔にはならない木立と、直線をふんだんに利用した建物と、ガラスの鈍い反射と、空。
勝手知らない立場には限りなく不親切だが、そもそも招かれてはいないのだからその不便も甘んじて受けよう。
(…………りく、)
ぼんやりと立っているだけに見えて感覚は周囲にできるだけ展開し、僅かな振動も逃すまいと感知しては選別を続ける。
気配、足捌き、衣擦れ、呼吸、あのこの、全部。
「んっ……?!え、い、じゃっくす?」
(……!)
ぴこ、と視野を遮らない前髪が反応した。
アンテナかレーダーだかの具現なのか、己の反応を如実に表すこの前髪も今はなかなか役に立つ。
「お、お前……なんで、いや、そもそもエイジャックスか?」
(です)
ゆっくりと瞬きをしてふんわりと肯定する。
その反応はこのこと一緒にいた時に散々やったいつもの肯定の動作だから、もうそれだけでほかの要素は要らないくらいだ。
「あ……、うん。いやそれでもだな、あれか、お盆にはまだ早いぞ……?」
(Festival Of The Dead.....”O-bon”...)
「なんか違うがちょっと正しい……死んでないしな……」
以前からそうだっただろうか、少し色味の変わったような緑色に身を包み、すらりと伸びた体躯があまりに眩しい。
メンダコみたいだ、と言われた瞳孔がなおさら細くなって、眉間にしわがよる。
(まぶしい)
「そうか?今日はそんなに日差しも強くないが……」
律儀に天を仰いで太陽の位置を探すあたり、あんなに小さかったころと何も変わっていなくて、魂が安堵した。どこにもないはずの、魂。
「ところで、本当にどうしたんだ、エイジャックス。向こうで何かあったのか?」
(ん)
ゆったりと頷く。
出会いがしらの驚きを越えて、納得はさておき本題に切り込める余裕ができた。
(攫いに、来た)
「……さら、いに」
(うん)
「……浚う方、ではなく」
(うん)
「さんずいではなく……いや、そもそも俺はいま英語で話してるか?」
(半々)
「半々か……」
どうにも意思の疎通が音声に頼らないので、相手も相手で言語の間を行ったり来たりしてしまう、らしい。
母国から無償提供されたところが発端だから、己も己で二つの言語をあちらこちら、言葉の選びに迷ってしまう。
「具体的に、どう攫うんだ」
(……ん、と)
こう、と言うが早いか柔らかく手首を掴む。
昔は二本まとめて片手に収まりそうだったのに、今では親指と中指が一周して触れるかも怪しいほどに逞しく、筋張っている。
(………)
「うん、それで」
(……あの辺の、芝生で、座る)
「うん?……うん、まあ、いいが」
こっち、とふんわり踵を返して手を引くというにはあまりに力の入らない手首の保持を続けながら、そよそよと風の吹くコンクリートを歩く。
さすがに土足で(しかも己は踵が高い靴だ)柔らかい芝生を踏むのは遠慮したいから、空いた手で縁石を指してここ、と視線を投げかける。
(だめ?)
「駄目じゃあないが……俺がいるから、外も行けるぞ」
(そと)
外。
元来、陸自とそれに類するいわゆる陸軍は、その場その場に長く居ることを前提に行動する。
ゆえに「駐屯地」と呼び習わすのだけれど、だからこそ、その場から外に出ることにはあまり意識が向かない。その領域に、揃っているから。
このこはどこにも、いないのだけれど。
(………さんぽ)
「うん。そうするか」
(いいの)
「ああ、この後はそこまで予定もない。なに、空が基地から戻る前に帰れば見つかることもないだろ」
空、と呼ぶ、ひとのかたちの組織。
己と後輩の所属を争ったらしい、二つの組織。
「時間を考えると…この辺一周くらいか。なんなら市ヶ谷ツアーでもするか?」
(……君が居たらいい)
ふるふると、首を振る。その瞼の裏で、仮にも誘拐犯に今後の行動を提案するひとがどこにいますか、と海担当の彼がものすごい剣幕で迫ってくるのが目に浮かぶ。
多分、同じ予想がこのこの中にも浮かんではもうすでに消えて、それを踏まえた上での提案なのだとよくわかる。
「なんだって攫いにきたんだ」
(………)
そ、れはね、とありもしない心に反して意志が表に出そうになる。
君とどうしたって離れたくはなかったのに、今はもうどうしたって離れているしかないから、どうしたらいいかと思っていて、それは日々の中に細かな砂塵が溢れるように薄れて薄れていくものだと、思っていたのに。
「何でもいいがな。さて、ペトリやら海やら、見つかるとうるさいのに見つかる前に行こう」
(………うん)
ぺとり、と呼んだ。
後輩の名前だ。後輩を通してすら、こんなにも遠い。
(会いたいだけじゃ、だめですか)
つかんだ手首に目を落とす。
人の集合体たる組織の具現は規則正しく脈を打つ。
会えて嬉しい、元気そうで、楽しそうだ、瞳が濁ってなくて、声に芯があって、体幹はすらりと伸びて、まっすぐに、愛おしい。
この「好き」という形容ひとつに落とせる余波が、どの属性かは決めかねていて、おそらく全部が含まれていて、だから伝えずにいようと思って。
「エイジャックス」
名前を、呼んで欲しかった。
攫おうとなんて、しなくてよかった。
(なまえ、)
「うん?」
を、
「エイジャックス?」
飽きるほど呼んで。飽きたりはしないで。
ずっと呼んでいて。焼き付けてしまって。
きみがおれのなまえをよぶのがすきだった。畳む
ふたりの距離が近いです。好きの種類が違います。#GAS
もう攫っちまえば良いじゃねえか、と、あまりに急な速度で正答が得られたものだから、驚いてしまうのが何より先で、気が付いたら市ヶ谷に居た。
(……?)
己でもよくわからない。
余生というにはあまりに無為な展示での保存をされていた。毎日天を廻る太陽と月とそれから曇りと雨と星と風と、ともかく自然をその身で感じている以外になかった余生に、突然後輩がど真ん中の正論を突きつけてきたので気がつけばここに居たのだ。
本体は置いてきた、のを感じる。そもそも退役して久しい上に、もともと所属に関しては何やら組織間でしっちゃかめっちゃかしたらしい余韻は端々から感じていたし、攫ってしまおうと思うに至った経緯もそこにほのかに起因しているし、何より年月が経ってもうあのこは「あのこ」なんて呼べるほど小さくもないのだろう。
(いちがや……)
後輩がいるはずだ。ここは陸海空の全てが揃うから、隊でも呼び方が様々でなんだかややこしいのだなぁと人間を見ていた気がする。
もう、あの土地で長らくを過ごしすぎて、離れすぎて、記憶も曖昧だ。
(……あいまい、なのに、)
曖昧なのに、攫おうとは思う。想う。
もう姿形も規模だって大きく違うあのこを、攫おうと思ってここに来る。
一個体のありもしない心など、いずれ薄れて消えていくと思っていたのに、今でもこんなに未練がましくしがみついているのかと、日本という国に供された己のことを振り返る。
(見つかる前に、)
配備されている後輩に見つかる前に捜しださねば。
決して後ろめたいわけではなく、ただただ愛について独特の感覚を持つ後輩に悟られて捕まって根掘り葉掘り聞かれると時間ばかりがすぎて目的達成が遅れるからだ。
(どこ、に)
居るのだろう。
陳腐に言えば絆、のようなもので確かにその存在は、少なくとも気配だけはここに感じている。さわさわと頬(と認識している場所)を撫でる何がしかの、形容しがたいざわめき。
ぽつんと、気がついたら立っていた場所で辺りを見回しても程よく視界を遮りそれでいて邪魔にはならない木立と、直線をふんだんに利用した建物と、ガラスの鈍い反射と、空。
勝手知らない立場には限りなく不親切だが、そもそも招かれてはいないのだからその不便も甘んじて受けよう。
(…………りく、)
ぼんやりと立っているだけに見えて感覚は周囲にできるだけ展開し、僅かな振動も逃すまいと感知しては選別を続ける。
気配、足捌き、衣擦れ、呼吸、あのこの、全部。
「んっ……?!え、い、じゃっくす?」
(……!)
ぴこ、と視野を遮らない前髪が反応した。
アンテナかレーダーだかの具現なのか、己の反応を如実に表すこの前髪も今はなかなか役に立つ。
「お、お前……なんで、いや、そもそもエイジャックスか?」
(です)
ゆっくりと瞬きをしてふんわりと肯定する。
その反応はこのこと一緒にいた時に散々やったいつもの肯定の動作だから、もうそれだけでほかの要素は要らないくらいだ。
「あ……、うん。いやそれでもだな、あれか、お盆にはまだ早いぞ……?」
(Festival Of The Dead.....”O-bon”...)
「なんか違うがちょっと正しい……死んでないしな……」
以前からそうだっただろうか、少し色味の変わったような緑色に身を包み、すらりと伸びた体躯があまりに眩しい。
メンダコみたいだ、と言われた瞳孔がなおさら細くなって、眉間にしわがよる。
(まぶしい)
「そうか?今日はそんなに日差しも強くないが……」
律儀に天を仰いで太陽の位置を探すあたり、あんなに小さかったころと何も変わっていなくて、魂が安堵した。どこにもないはずの、魂。
「ところで、本当にどうしたんだ、エイジャックス。向こうで何かあったのか?」
(ん)
ゆったりと頷く。
出会いがしらの驚きを越えて、納得はさておき本題に切り込める余裕ができた。
(攫いに、来た)
「……さら、いに」
(うん)
「……浚う方、ではなく」
(うん)
「さんずいではなく……いや、そもそも俺はいま英語で話してるか?」
(半々)
「半々か……」
どうにも意思の疎通が音声に頼らないので、相手も相手で言語の間を行ったり来たりしてしまう、らしい。
母国から無償提供されたところが発端だから、己も己で二つの言語をあちらこちら、言葉の選びに迷ってしまう。
「具体的に、どう攫うんだ」
(……ん、と)
こう、と言うが早いか柔らかく手首を掴む。
昔は二本まとめて片手に収まりそうだったのに、今では親指と中指が一周して触れるかも怪しいほどに逞しく、筋張っている。
(………)
「うん、それで」
(……あの辺の、芝生で、座る)
「うん?……うん、まあ、いいが」
こっち、とふんわり踵を返して手を引くというにはあまりに力の入らない手首の保持を続けながら、そよそよと風の吹くコンクリートを歩く。
さすがに土足で(しかも己は踵が高い靴だ)柔らかい芝生を踏むのは遠慮したいから、空いた手で縁石を指してここ、と視線を投げかける。
(だめ?)
「駄目じゃあないが……俺がいるから、外も行けるぞ」
(そと)
外。
元来、陸自とそれに類するいわゆる陸軍は、その場その場に長く居ることを前提に行動する。
ゆえに「駐屯地」と呼び習わすのだけれど、だからこそ、その場から外に出ることにはあまり意識が向かない。その領域に、揃っているから。
このこはどこにも、いないのだけれど。
(………さんぽ)
「うん。そうするか」
(いいの)
「ああ、この後はそこまで予定もない。なに、空が基地から戻る前に帰れば見つかることもないだろ」
空、と呼ぶ、ひとのかたちの組織。
己と後輩の所属を争ったらしい、二つの組織。
「時間を考えると…この辺一周くらいか。なんなら市ヶ谷ツアーでもするか?」
(……君が居たらいい)
ふるふると、首を振る。その瞼の裏で、仮にも誘拐犯に今後の行動を提案するひとがどこにいますか、と海担当の彼がものすごい剣幕で迫ってくるのが目に浮かぶ。
多分、同じ予想がこのこの中にも浮かんではもうすでに消えて、それを踏まえた上での提案なのだとよくわかる。
「なんだって攫いにきたんだ」
(………)
そ、れはね、とありもしない心に反して意志が表に出そうになる。
君とどうしたって離れたくはなかったのに、今はもうどうしたって離れているしかないから、どうしたらいいかと思っていて、それは日々の中に細かな砂塵が溢れるように薄れて薄れていくものだと、思っていたのに。
「何でもいいがな。さて、ペトリやら海やら、見つかるとうるさいのに見つかる前に行こう」
(………うん)
ぺとり、と呼んだ。
後輩の名前だ。後輩を通してすら、こんなにも遠い。
(会いたいだけじゃ、だめですか)
つかんだ手首に目を落とす。
人の集合体たる組織の具現は規則正しく脈を打つ。
会えて嬉しい、元気そうで、楽しそうだ、瞳が濁ってなくて、声に芯があって、体幹はすらりと伸びて、まっすぐに、愛おしい。
この「好き」という形容ひとつに落とせる余波が、どの属性かは決めかねていて、おそらく全部が含まれていて、だから伝えずにいようと思って。
「エイジャックス」
名前を、呼んで欲しかった。
攫おうとなんて、しなくてよかった。
(なまえ、)
「うん?」
を、
「エイジャックス?」
飽きるほど呼んで。飽きたりはしないで。
ずっと呼んでいて。焼き付けてしまって。
きみがおれのなまえをよぶのがすきだった。畳む
擬人化:なんだかんだわいわいしてたらいいなという話。
陸自駐屯地・装備品擬人化小話。下志津駐屯地の駐屯地記念行事には空自の装備も来ますという話。
登場人物:下志津駐屯地、習志野駐屯地、習志野分屯基地、ペトリオット #GAS
緩やかな風に香りは流されて、視界いっぱいにはむせ返るような物量のつつじの色とりどり。
広い芝生の上に賑やかな露店、走り回る子供達、人目につかないところできびきびと動く部隊をよそに、訪れた人々が和やかに開始を待っている。晴天、眩しいほどの美しい朝。
「わあ……のどか……」
迷彩のもさもさしたものに覆われた己の一部の足元で、三角座りのまま思わず素直な感想が声に出た。
隣で同じように最終調節を行いながら開始を待つ習志野分屯基地が少しだけ己に視線をやって、またすぐに真正面に広がる演習場に目を戻す。
広さで言えば狭い方、少し走れば端から端までたどり着く敷地にこれでもかと言わんばかりに装備品が仕込まれて、さらにこのあと増えるのだから見ものである。己も参加するのだけれど。
式辞やなんかは自分たちのためにはないから、ただただお行儀良くしていることが今の仕事だ。
「ペト、緊張感」
「はい」
三角座りでいる時点で、威厳も何もないように思うが全く意識を持たないのとでもまた違う。少しだけ姿勢を正す。
このひとが、己の運用者であるこのひとが、ぺと、と名前を呼ぶのが好きだ。名前自体も略称で、世間一般と発音から違うのだけれど。
場内に向けて涼やかな声が開催を告げ、慣れ親しんだ物々しさで部隊の入場が始まり、きびきびと次第が進行していく。
芝生と違った緑に赤の差し色が眩しい制服、煌めく楽器を整然と奏でた音楽隊が退場し、にわかに観客席の緊張感も高まったような気がした。
「ペト」
「はい」
ここからは己も参加する展示訓練、淡々とアナウンス。状況開始の号令。
すらりと立ち上がり、事前に知らされたタイミングを待つ。海の向こうでやるような実弾を打つことはないけれど、それでも訓練とは言え己の本領発揮が想定されている以上、どこにあるのかもわからない心と呼ばれるだろうものが興奮で沸き立つのは変わらない。
飛翔体、敵の飛翔体。俺が落とすもの、ぶつけて殺すもの。愛をもって丁寧に、最後まで殺しきるもの。殺しきらねばならないもの。
もちろん見えてはいるのだが、周囲から見ると閉じているように見えるらしい目を、最大限に見開く。よく見える。空が、よく見える。
あの中にもし飛ぶものがあれば、脅威をもって飛んでくるものがあれば、己の出番だ。本当は。訓練、構えるだけ、飛ばす振り、想定と仮想のみ。
惜しい、と思う。いいな、とも思う。たとえ空砲であれどあの装備品たちは実際に打ち出す挙動まで行えて、いいなと思う。空を飛ぶ同僚たちは、この思いを抱くのだろうか、例えば富士の山麓で。
己のシステムが脅威など何もないと伝えてくる。目で見るよりも明らかで、詳しくて、信頼できる己のシステム。
状況終わりのラッパが鳴り響く。観客席も動き出す。己はこれから、展示品。
「ふにゃふにゃしない、動的展示もあるんだからね」
「ひゃい」
気を抜いているわけではないが、噛んだ。
再び己の一部の足元で三角座り。少し動かす展示はあるが、あとはほぼほぼ動きもしない。迅速に広報用の展示準備がなされていく。
広場の向こうのほうに、敷地を同じくする部隊のブースが展開されていく。
「習志野さん、風でしたね」
「……なんかあのひとが風邪引いたみたいに聞こえるからやめて」
「風邪引くんですか習志野さん」
「いや……引いても気づかなさそうというか、自覚の前に体内で殺菌されてそう」
「あっ、ちょっとわかる」
習志野駐屯地、と言えばわかる人間にはわかる。第一空挺団、と言えばなおさらのことだ。精鋭無比の、とんでも集団。
「おう、習志野ちょっといいか」
「はいよ、何?」
「動的展示の時間だけどよー」
下志津駐屯地そのひとがバインダー片手にやってきて、なにやら時間の話をしている。
先程までの緊張感は何処へやら、場内は完全にお祭りの和やかさと賑やかさを取り戻して、吹く風に満開のつつじが香る。
多少の波はあれ、人が途切れることもなく写真写りを気にして姿勢を正し続けていると、見知った顔が増えた。
「あれ、習志野さん、帰ったんじゃ」
「運動不足でよ」
天候次第とは言え、降下直前まで準備していた習志野駐屯地そのひとである。
「えっ、あんたなんでいるの。降下中止で帰ったんでしょ」
「徒歩十五分だろ、ここ」
「なんで徒歩が車で来るより早いの、おかしいでしょ」
同じ千葉県内、距離にして約十三キロ。常人の足で約三時間、車で四十分を徒歩十五分と言い切る豪傑である。
「あたまがおかしい、って習志野さんが言ってました」
「ぺと!お口チャック!」
「ぬん」
「最近褒め言葉じゃねえかなって思ってきた」
「えっそれはちょっと待って普通に褒めてないから」
己の所属地でよく見るやりとりだ。そもそもこの駐屯地と分屯基地という所属が違えど所在地は同じ、という成り立ちから複雑で、かつそこには現在地であるこの下志津駐屯地も大きく関わってくる。
所属組織の、手の届かないところの話だ。本国で己の先達として開発運用されたものたちの話でもある。
「……のどか」
「ぺと、そればっかだね。気に入った?」
「秘密です」
「なにそれ」
んぬふふ、と閉じた口から笑いを漏らす。
「お?習志野、来てたのかよ」
「おう。邪魔するぜ」
駐屯地同士の端的な会話だ。
ぺと、と己の運用者たるひとが呼ぶのが好きだった。ペト、とその隣のひとが己を呼ぶのも好きだった、受け入れられている気がして。
ぺと、と、もしかしたら己を運用するかもしれなかったひとが己を呼ぶのが好きだった、その名前の中にあらゆる先達の面影が含まれていて。
いつもこの門をくぐるとき、思うことがある。声には出さない。どこにあるのかもわからない心とかいう中でだけ。
──ただいま。畳む
陸自駐屯地・装備品擬人化小話。下志津駐屯地の駐屯地記念行事には空自の装備も来ますという話。
登場人物:下志津駐屯地、習志野駐屯地、習志野分屯基地、ペトリオット #GAS
緩やかな風に香りは流されて、視界いっぱいにはむせ返るような物量のつつじの色とりどり。
広い芝生の上に賑やかな露店、走り回る子供達、人目につかないところできびきびと動く部隊をよそに、訪れた人々が和やかに開始を待っている。晴天、眩しいほどの美しい朝。
「わあ……のどか……」
迷彩のもさもさしたものに覆われた己の一部の足元で、三角座りのまま思わず素直な感想が声に出た。
隣で同じように最終調節を行いながら開始を待つ習志野分屯基地が少しだけ己に視線をやって、またすぐに真正面に広がる演習場に目を戻す。
広さで言えば狭い方、少し走れば端から端までたどり着く敷地にこれでもかと言わんばかりに装備品が仕込まれて、さらにこのあと増えるのだから見ものである。己も参加するのだけれど。
式辞やなんかは自分たちのためにはないから、ただただお行儀良くしていることが今の仕事だ。
「ペト、緊張感」
「はい」
三角座りでいる時点で、威厳も何もないように思うが全く意識を持たないのとでもまた違う。少しだけ姿勢を正す。
このひとが、己の運用者であるこのひとが、ぺと、と名前を呼ぶのが好きだ。名前自体も略称で、世間一般と発音から違うのだけれど。
場内に向けて涼やかな声が開催を告げ、慣れ親しんだ物々しさで部隊の入場が始まり、きびきびと次第が進行していく。
芝生と違った緑に赤の差し色が眩しい制服、煌めく楽器を整然と奏でた音楽隊が退場し、にわかに観客席の緊張感も高まったような気がした。
「ペト」
「はい」
ここからは己も参加する展示訓練、淡々とアナウンス。状況開始の号令。
すらりと立ち上がり、事前に知らされたタイミングを待つ。海の向こうでやるような実弾を打つことはないけれど、それでも訓練とは言え己の本領発揮が想定されている以上、どこにあるのかもわからない心と呼ばれるだろうものが興奮で沸き立つのは変わらない。
飛翔体、敵の飛翔体。俺が落とすもの、ぶつけて殺すもの。愛をもって丁寧に、最後まで殺しきるもの。殺しきらねばならないもの。
もちろん見えてはいるのだが、周囲から見ると閉じているように見えるらしい目を、最大限に見開く。よく見える。空が、よく見える。
あの中にもし飛ぶものがあれば、脅威をもって飛んでくるものがあれば、己の出番だ。本当は。訓練、構えるだけ、飛ばす振り、想定と仮想のみ。
惜しい、と思う。いいな、とも思う。たとえ空砲であれどあの装備品たちは実際に打ち出す挙動まで行えて、いいなと思う。空を飛ぶ同僚たちは、この思いを抱くのだろうか、例えば富士の山麓で。
己のシステムが脅威など何もないと伝えてくる。目で見るよりも明らかで、詳しくて、信頼できる己のシステム。
状況終わりのラッパが鳴り響く。観客席も動き出す。己はこれから、展示品。
「ふにゃふにゃしない、動的展示もあるんだからね」
「ひゃい」
気を抜いているわけではないが、噛んだ。
再び己の一部の足元で三角座り。少し動かす展示はあるが、あとはほぼほぼ動きもしない。迅速に広報用の展示準備がなされていく。
広場の向こうのほうに、敷地を同じくする部隊のブースが展開されていく。
「習志野さん、風でしたね」
「……なんかあのひとが風邪引いたみたいに聞こえるからやめて」
「風邪引くんですか習志野さん」
「いや……引いても気づかなさそうというか、自覚の前に体内で殺菌されてそう」
「あっ、ちょっとわかる」
習志野駐屯地、と言えばわかる人間にはわかる。第一空挺団、と言えばなおさらのことだ。精鋭無比の、とんでも集団。
「おう、習志野ちょっといいか」
「はいよ、何?」
「動的展示の時間だけどよー」
下志津駐屯地そのひとがバインダー片手にやってきて、なにやら時間の話をしている。
先程までの緊張感は何処へやら、場内は完全にお祭りの和やかさと賑やかさを取り戻して、吹く風に満開のつつじが香る。
多少の波はあれ、人が途切れることもなく写真写りを気にして姿勢を正し続けていると、見知った顔が増えた。
「あれ、習志野さん、帰ったんじゃ」
「運動不足でよ」
天候次第とは言え、降下直前まで準備していた習志野駐屯地そのひとである。
「えっ、あんたなんでいるの。降下中止で帰ったんでしょ」
「徒歩十五分だろ、ここ」
「なんで徒歩が車で来るより早いの、おかしいでしょ」
同じ千葉県内、距離にして約十三キロ。常人の足で約三時間、車で四十分を徒歩十五分と言い切る豪傑である。
「あたまがおかしい、って習志野さんが言ってました」
「ぺと!お口チャック!」
「ぬん」
「最近褒め言葉じゃねえかなって思ってきた」
「えっそれはちょっと待って普通に褒めてないから」
己の所属地でよく見るやりとりだ。そもそもこの駐屯地と分屯基地という所属が違えど所在地は同じ、という成り立ちから複雑で、かつそこには現在地であるこの下志津駐屯地も大きく関わってくる。
所属組織の、手の届かないところの話だ。本国で己の先達として開発運用されたものたちの話でもある。
「……のどか」
「ぺと、そればっかだね。気に入った?」
「秘密です」
「なにそれ」
んぬふふ、と閉じた口から笑いを漏らす。
「お?習志野、来てたのかよ」
「おう。邪魔するぜ」
駐屯地同士の端的な会話だ。
ぺと、と己の運用者たるひとが呼ぶのが好きだった。ペト、とその隣のひとが己を呼ぶのも好きだった、受け入れられている気がして。
ぺと、と、もしかしたら己を運用するかもしれなかったひとが己を呼ぶのが好きだった、その名前の中にあらゆる先達の面影が含まれていて。
いつもこの門をくぐるとき、思うことがある。声には出さない。どこにあるのかもわからない心とかいう中でだけ。
──ただいま。畳む
二次創作:結局、我々は敵の言葉ではなく友人の沈黙を覚えているものなのだ。
タイトルはキング牧師のことばから。
実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。
生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀
主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg
実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。
高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。
それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。
何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。
ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)
「やることがさぁ……コスいんだよな」
呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。
姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。
「人間ドックタグ……ってか」
鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。
死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。
伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。
相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。
「まー、何でも良いんだけどね」
着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。
「うぇ…今日は折れないと良いな」
火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。
五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。
着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。
持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。
窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。
暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。
昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。
「お待たせ。じゃ、行こうか」
空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。
ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。
今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。
「まずそこからだよなぁ」
不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。
未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。
こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。
端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。
「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」
先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。
土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。
あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。
「生きてるって楽しいねぇ!」
骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。
踊りながら、死と笑う。畳む
タイトルはキング牧師のことばから。
実際にあの規模で一般人たちに宝探しのことがバレてたら、それすら織り込み済みの任務だったんじゃないかなというロゼッタ協会に対する不信が根底にある話。歩けば治る特異体質継続、戦闘はターン制ではないいいとこ取り世界観。探索パートの場所とバディはご想像にお任せできるふんわり仕様です。
生きているのが楽しいから、積極的に死にに行く葉佩九龍の話。#九龍妖魔學園紀
主人公:葉佩九龍(デフォルトネーム)/出身地:北海道/身長:165cm/体重:52kg
実際のところ、要は相棒探しでもあるのだろう。
高校生、しかも卒業間近とあれば今後の進路などいくらでも作ることができるから、上手いことやるにはちょうど良い最後の年齢ということだろう。
それだけが全てではないが、確かにその目的もないわけではない。季節外れの転校生、夜な夜な続く墓場の探索、バレないようにやるのは無理だ。
何人かは止むを得ず巻き込もうと思ってはいたが、ここまで人数が増えてくるとは思わなかった。その上、恐らく生徒会の人員が遺跡に関わることなど基本情報として把握はされていたはずだ。それが共有されるかは別で。
ただでさえ前の任務では一人で勝手に窮地に陥り散々な目にあったのだ。(あの老人はいつか車椅子ごと殺す)
「やることがさぁ……コスいんだよな」
呟いたところで現状は変わらない。ひたすら毎日教室へ行って勉学に励み、部活はないが適当に交流を持ち、日が暮れれば墓の中。毎日が産まれ直しみたいだ。
姿見に映る体は若者特有の細さで、しなやかな筋肉がうっすらとわかる。首元に冷たく光る二枚の鉄板さえなければ、どこをどう見ても健康な男子高校生。
「人間ドックタグ……ってか」
鼻で笑う。笑わざるを得ない。これだけの規模に膨れ上がった探索が意味するものの中に、ずっと付きまとう戦死の二文字。殉職扱いになるかは不明だが(契約書読んどこ)そも死んだあとなら何にもならない。
死んだ事実を何処かへ持って帰るためのもの。必要な情報として処理を望むところへ知らせることができるもの。簡単な金属板はもちろん自分で走らないから、自分で走る人間が一人は求められる。理想の形として。
伝えて欲しい人なんかいないが、組織の中とはそういうものだ。自分の意思とは別で必要として扱われることがある。
相棒、バディ、ツーマンセル──少なくとも、”友人”ではない。
「まー、何でも良いんだけどね」
着替えを済ませて伸びをする。昨日、盛大に折れた肋骨は歩いているうちにくっついてずいぶん綺麗に治ってくれた。口の中に広がる血の味と込み上げた胃酸の味が蘇って、鳩尾あたりが変に力む。
「うぇ…今日は折れないと良いな」
火傷も痛いし跡が残りがちになる。毒やらなんやらも食らった直後はとんでもないからやめて欲しい。失明なんざ言うまでもなく遠慮したいし凍傷だって指が落ちそうだからやめてほしい。
五体満足は保障された福利厚生だ。仕組みは何にも判りはしないが、ともあれ享受できる恩恵は受けておくに越したことはない。
着替え──と言っても肌着とシャツを替えて必要な分を洗濯に出すくらいだが──を終えて着込んだアサルトベストを大まかに確認する。
持ち物良し、装備よし、食べ物よし、気分よし。
窓の外は夕暮れを越え、沈むのだけは早い太陽があっという間に夜を連れてくる。部活動も終わり校舎から生徒が消え、寮の門限が迫る。
暗視ゴーグルを首にかけ、窓から外に滑りでる。静かに窓を閉めたあとは一足跳びに地面へ降りて敷地の中を墓地へ急ぐ。
昼間話をつけておいた人影が二つ、大人しく待っていてくれる。
「お待たせ。じゃ、行こうか」
空は月夜、細い月だけが照らす背中を地下遺跡へ滑り込ませばもう慣れきった埃っぽさが鼻をくすぐる。
ロープ伝いに降りてきた二人にそれぞれ手を貸してやりながら、ふとこの手を取って連れていくには何をどれだけ捨てさせるのかと考える。
今までの人生を、これからの全てを捨ててくれと言うだけの価値が己にあるのか。
「まずそこからだよなぁ」
不思議そうな顔をする今夜の相棒たちに、なんでもないよと一つ手を振って肩を回す。
未知の領域に向き合った興奮がじわじわと押し寄せる。手足の先が痺れるような、へそのあたりがぞわぞわするような、心拍数と血圧が上がり瞳孔が開くのがわかって、自然と口の端が吊る。
こればっかりはやめらんないよね、と口の中だけで呟いて今夜の進む方向を示す。土と埃と湿気と死の匂い。もはやこれを毎夜摂取できているだけでこの世の宝をほぼ全て手にしているに等しい幸せなのに、これ以上が求められるのもたまらない。
端末がふいに無機質な声で敵影を告げる。にんまりと顔が笑うのはそのままに、ホルスターから銃を抜き片手で鯉口を切っておく。逆手持ちなのは許されたい。
「そんじゃまあ、楽しんでいこうか」
先手必勝、ピンを抜いた手榴弾が宙を舞い動きを察知した敵影が移動するまでのわずかな間目掛けて引き金を引く。
土と埃と湿気と死の匂いに硝煙と体液の粘着が混じる。
あまりの楽しさに瞬きを忘れそうになりながらありったけの弾丸を打ち込んで笑う。
「生きてるって楽しいねぇ!」
骨折も裂傷も、何もかも受け止めて葉佩九龍は今日も笑う。地下で笑う。
踊りながら、死と笑う。畳む
しました(結論)
てがろぐは設定をどうにか変更するものと、スキン側のCSSなどを触るものが混同していて「どっちだ…!」になりがちですが八割はてがろぐ側の設定などであるという知見があります。それしかないとも言う。
今日はCOMITIA144の荷造りをして宅配搬入の準備をして…と思っているんですが喉が痛くてアイスばっかり食べていたり荷造りが全然進んでいなかったりでいまです。あとガムテープが見当たらなくて部屋の真ん中で「おおっとそうきたか」と誰かに向けて喋っています。
そういえば最初の方の日記で『仮想敵を作るな』というモットーについていつか書くかもしれないと言いつつ書いていないですね。はい。いつか書くことが本当になくなったら書きます。